地下よりも空が最適? 都市型ロープウェーに注目だ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
箱根山の噴火警戒レベルが2になって、箱根ロープウェイが全面運休になった。ところで、ロープウェーのメリットは観光地だけではなく、都市でも有効だ。東京都江東区が都市型ロープウェーを提案している。区長は「夢」と言うけれど、意外と良い案かもしれない。
ロープウェーのメリットは都市でも生きる
ロープウェーの最新技術を紹介したところで、運用面のトレンドも紹介したい。ロープウェーは観光地や遊園地の乗りものという印象が強いけれど、都市の輸送手段としても注目されている。都市部に公共交通を新設するときの懸念要素が少ないからだ。
まず建設費が安い。用地は支柱の分だけ。トンネルや高架線などの設備もいらない。支柱を立て、ロープを渡すだけだ。動力は駅の片側1カ所だけ。ゴンドラに動力はいらない。駅も地下鉄に比べれば簡素である。実は地下鉄建設費で最もお金がかかる構造物は駅で、地下深くなるほど高額になる。地下鉄は路線全体で1キロメートルあたり200億円から300億円の費用が相場だ。ちなみに都営地下鉄大江戸線の総建設費は約1兆3920億円。1キロメートルあたり約342億円だ。
これに対してロープウェーの費用は1キロメートルあたり10億円からだ。ロープウェーの費用は1キロメートル以上の建設事例が少なく、概算費用の記述も文献によって異なり、同じ都市なら地下鉄の10分の1とか、1キロメートルあたり45億円という数字もある。いずれにしても地下鉄より安い。
次に工期の短さがある。建設費が安い、構造が簡単といっても支柱間にロープを渡す作業は大変で、山間部ロープウェーの場合、ロープを持った作業員が細いロープを引いて歩き、支柱間で張ったところでたぐり寄せ、だんだんケーブルを太くしていく。都市部にロープウェーを建設する場合、最初のロープは誰が引いて歩くのか。その用地はどう確保するか。いや、そこで今話題のドローンが活躍しそうだ。ドローンに長い釣り糸をくくりつけ、支柱から支柱へ飛ばす。その釣り糸をたぐり寄せていくわけだ。
運行面では静粛性が挙げられる。観光地でロープウェーに乗った人なら分かるはずだ。ロープウェーのゴンドラは動力を持たないから、風の音、鳥のさえずりしか聞こえない。これは沿線の人々にもメリットである。深夜早朝も運行できる。24時間運行も可能だ。駅の利便性も良さそうだ。東京で地下鉄新線を作るなら大深度地下しか空いていない。むしろ地上からホームまでの距離は、ロープウェーのほうが短くできるかもしれない。
反対に懸念される要素としては、都市景観としてロープそのものが醜悪にならないか、ゴンドラや部品などの落下事故による地上への影響、そして高層建築物の窓をのぞき見えるという部分でプライバシーの問題もある。「愛・地球博」のモリゾーゴンドラは、一部の区間で窓ガラスが遮光する機構が備わっていた。建設費は多少上がっても、安全面や環境面の配慮が必要になる。
海外では都市型モノレールの実績がある。ロンドンで2012年のオリンピック開催に合わせて、テムズ川を渡るロープウェーを建設した。距離は1キロメートル、時速約20キロメートルだ。この路線はドバイの航空会社であるエミレーツが命名権を獲得し、運行費用を支援している。路線名は「エミレーツ・エア・ライン」となった。洒落た名前で、日本ではエミレーツ航空と間違えてしまいそうだが、同社の英語の会社名は「エミレーツ」。「エミレーツ・エア・ライン」はロープウェー、空に引いたロープ(ライン)である。後述の江東区案も、江東区長が「エミレーツ・エア・ライン」を視察して着想したという。
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