“若手”の「パルム」が、発売後7年で8倍も売れた理由:水曜インタビュー劇場(アイス公演)(6/7 ページ)
発売してから今年で10年目の「PARM(パルム)」(森永乳業)が、ビッグブランドの中に食い込んでいる。アイスクリーム市場は定番商品が強いのに、なぜ“若手”のパルムは売れているのか。その謎に迫った。
なぜパルムは売れたのか
土肥: パルムの売り上げは発売初年度と比べて、8倍になりました。その状態が3年も続いているので、現在はいわゆる“高止まり”。会社の上層部からは「もっと売り上げを伸ばして!」などと言われていると思うのですが、今後はどのような手を打たれるのでしょうか。
孫田: パルムって世の中に浸透していると思いますか?
土肥: うーん、どうなんでしょう。数字を見る限り、ビッグブランドの仲間入りをしていますが、その中ではまだまだ認知度が低いような。
孫田: 発売してから10年が経ちますが、私も消費者の生活に密着しているとは思っていません。例えば「PARM」ってどのように読むと思いますか? と聞いたら「パーム」と答える人がまだまだ多い。「チョコのついたバー」と言う人もいますし、競合商品を間違って購入される人もいる。こうした状況なので、まだまだやらなければいけないことはたくさんあると思っています。
土肥: そろそろインタビュー時間のお尻が迫ってきましたので「パルムがなぜ売れたのか」――私なりにまとめさせていただきますね。商品開発をする際には、いくつかの壁があると思うんです。例えば、技術的な壁。パルムの場合は、「なめらかさ」「口どけ」「コク」という特徴を掲げられましたが、新しい機械を導入することで、これまで多くの日本人が体験したことがなかった「食感」を実現することができました。もちろん機械を導入したからといってすぐに完成したわけでなく、原料を選定して、数多くの試作を繰り返した結果、いまのパルムがあるわけですよね。
2つめの壁は「価格」。当時のマルチパックは300円が多かったのに対し、パルムは350円。価格設定を少し高くしたので、発売当初は苦戦した。しかし、試食販売を行うことで「おいしい」という口コミが広がっていった。「他の商品に比べると少し高いけれど、平日のご褒美に『ちょっとぜいたくしてもいいかも』」という人が増えていった。
3つめの壁は「販路確保」。アイスクリームの場合、特に販路を確保することが難しいと思うんですよ。冷蔵ケースが小さいので、各社は自社商品を置いてもらおうとして力を入れる。定番商品が季節限定商品やフレーバー展開をするので、どうしてもそうした商品が優先される。いわゆる“ハズレ”が少ないので。また、ここ数年、PB商品やコンビニコーヒーのアイス用のカップが置かれているので、新商品がますます売りにくくなっている。
販路確保は大きな壁だったのに、森永乳業はパルムの試食販売を積極的に行って「おいしい」という口コミを広げた。またテレビCMやマーケティング活動などで「大人も平日にちょっとぜいたくしてもいいんですよ」と訴求した。発売してから6カ月後にジワリジワリと広がり、2年目以降は急速に伸びていった。そうなるとスーパーもコンビニも「パルムはちょっと高いから売りにくいなあ」と言えなくなって、店頭に商品が並び始めた。その結果、お客さんは買いやすくなって、さらに売り上げが伸びていった。
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