JR東日本がクルマの自動運転に参入する日が来る?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
クルマの自動運転はすばらしい。未来の移動手段だ。しかし、鉄道ファンの私としては心がざわつく。クルマを自分で運転する必要がなく、鉄道並みの安全性と定時性が確保されたら列車は不要になるからだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
クルマの自動運転社会が実現すると、鉄道の存在意義が問われる。特に地方で。
自動車に対して、列車の優位な機能は、大量輸送、高速、定時性だ。クルマが道路に集中すれば渋滞が起きる。自動運転であるかないかは関係ない。現在、通勤電車が運んでいる人々がすべて自家用車になったら、渋滞は増え、その対策に道路の拡幅が必要で、究極には都心に向かうほど道路だらけになる。オフィスを置く場所もなくなって、クルマに乗る目的がなくなってしまう。あり得ない。
だから都市の鉄道路線は安泰だ。都市間を結ぶ特急列車もスピードで優位に立てる。しかし、地方のローカル線はどうか。輸送量が少なく、バスでも足りるような路線なら、自動運転のクルマのほうが便利ではないか。
本誌の連載・池田直渡さんの「週刊モータージャーナル」でクルマの自動運転の話が続いている(関連記事)。これがとても興味深い。詳細は記事を読んでいただくとして、一般道を自律走行するシステムも実験段階に入っているという。メルセデスベンツは2013年、一般公道100キロメートルを自動運転で走破したそうだ。ボルボは本社があるスウェーデン・イェーテボリ市の一般公道で自動運転車両を走らせる実験を行う。2017年までに100台の運行が目標とのことだ。
イェーテボリ市の公式サイトによると人口は約54万人。Wikipediaによれば中央駅から首都ストックホルムまでは列車で3時間。北海に面する港湾都市で、空港もあり、路面電車が走る。日本の都市に例えるなら松山市くらいの規模だろうか。そこで100台の自家用自動運転車が走り出す。ボルボのプレスリリースによると、この実験は「政策立案者や運輸担当の行政機関、市、自動車メーカーが連携して実施する」という。
日本のクルマも、車間距離を保つシステムや、直前に横切る人や物を察知すると緊急ブレーキをかけるシステム、道路の白線を検知してレーンを維持するシステムが実用化されている。車庫入れや縦列駐車もやってくれる。そこまでは私も知っていたけれど、出発地から目的地まで、ドアツードアの自動運転ができる時代がやってくるそうだ。
サーキットや制限エリアではなく、一般道路で実現できるとは驚く。ボルボの取り組みが国を挙げて行われる背景は、もちろん世界の自動車市場を見据えているからだろう。自動運転技術において、いち早く実績を積めば、ボルボは世界のリーダーになるかもしれない。そして、日本のクルマの技術者たちは嘆くだろう。そんなことは日本ではなかなかできない。日本はクルマ側の自動運転技術に先んじたとしても、自動運転社会への取り組みは難しい。
いや、そんなことはない。ボルボのプレスリリースでも、実験は“一定の”一般公道と書いてある。実験できる道路には条件があるようだ。それなら日本でも限定的に自動運転をサービスできる道路がある。BRT(バス・ラピッド・トランジット)専用道だ。現在はバス専用だけど、この区間を自動運転モードの自家用車も利用可能とする。通行はバス優先としても、バスが停留所に退避しているときは追い越し可能。自動運転はそのくらいのプログラムができるはずだ。
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