JR東日本がクルマの自動運転に参入する日が来る?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
クルマの自動運転はすばらしい。未来の移動手段だ。しかし、鉄道ファンの私としては心がざわつく。クルマを自分で運転する必要がなく、鉄道並みの安全性と定時性が確保されたら列車は不要になるからだ。
BRT専用道は自動運転社会への橋渡し
BRT専用道に自動運転車を運用する。その状況を空想してみよう。当面は人間の操作による運転(通常運転と呼ぶ)と併用する。ドライバーは自宅から通常運転でBRT専用道の入り口に到着する。そこには待機レーンがあり、ここに停めて自動運転のスイッチを入れる。あとはクルマが勝手にBRT専用道を走り、目的地付近の出口に到着。待機レーンに入る。ドライバーは通常運転モードに切り替えて目的地に向かう。
JR東日本が気仙沼線や大船渡線で運行しているBRT専用道は単線だ。バスはすれ違い場所で対向車を待つ。そのバスに追随する形で自動運転車を走らせる。そしてJR東日本はBRT路線を利用する自動運転車から、ETCシステムで通行料をもらう。BRTバスの運賃以外の収益源になるのだ。
自動運転車が停留所でバスを追い越しできるとはいえ、一般国道より速度は低い。しかし、クルマを利用する人すべてが所要時間の短縮を求めているわけではない。車内で本を読んだり、眠ったり、スマホアプリで遊んだり。移動時間を有効に使えるなら、確実に目的地に到着できるだけで良いという人もいるはずだ。目的地に早く行きたい人は、操作運転で一般道路を走れば良い。大手私鉄の通勤電車だって、混んでいる急行より、わざわざ空いている各駅停車を選ぶ人もいる。
自動運転社会が到来するとしても、すべてのクルマが一斉に自動化されるわけがない。かなり長い時間をかけて、自動運転車と操作運転車が混在する状況になるだろう。その場合の問題は安全面だ。Googleが自動運転車を270万キロメートル走らせた実験では、11件の事故が起きた。原因は操作運転者のもらい事故だったという。
道路上がすべて自動運転車だったら、完全に交通を制御できる。しかし、自分で運転したい人もいる。遠い将来に「自分で運転する行為」そのものが「趣味」とみなされ「趣味を楽しむ人は公道ではなくサーキットで遊びなさい」という時代も来るかもしれない。そんな時代は当分来ないだろうけれど、自動運転車の安全システムは重要だ。最も安全な方法は、通常運転車からの隔離である。
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