JR東日本がクルマの自動運転に参入する日が来る?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
クルマの自動運転はすばらしい。未来の移動手段だ。しかし、鉄道ファンの私としては心がざわつく。クルマを自分で運転する必要がなく、鉄道並みの安全性と定時性が確保されたら列車は不要になるからだ。
鉄道の存在意義を見つめ直す機会だ
日本の自動車産業が世界で戦っていくには、自動運転社会の実現が急がれる。そこでBRTの道路を有効活用したい。そのためには、現在、BRT路線を運行している会社の参加が不可欠だ。日本でBRT専用道を運行しているのは数カ所ある。その中でもインパクトが大きい路線と言えば、JR東日本の気仙沼線と大船渡線だろう。鉄道再開の仮復旧という名目ながら、駅は鉄道からBRT向けへの改装が進んでいる。気仙沼線に至っては、鉄道運行区間の柳津駅〜前谷地駅間も平行道路にBRTバスを乗り入れている。直通客にとって柳津の乗り換えは不便だから、この施策は正しい。
JR東日本がBRTバスに自動運転を導入したらどうか。これは既存の法律の範囲内で転換可能だ。現在、無人運転を実施している「ゆりかもめ」と同じ運行システムで、軌道が道路になる程度の話である。2005年の万博「愛・地球博」でトヨタが出展、運用したIMTS(Intelligent Multimode Transit System)は、まさにBRTの自動運転の具現化であり、鉄道路線として国の許可を得て運行していた。
こうなると、ローカル線にとっては鉄道であり続ける意味が問われる。鉄道には大量輸送、定時性、強固な安全システムという利点がある。しかし、ローカル線にとって、これら3点はコスト面で過剰な設備となり事業者の経営を圧迫する。一方、自動運転車のコストはIT技術の進展と大量生産によって下がっていく。
日本の自動運転社会の実現に、JR東日本のBRT路線が大きな役割を果たすかもしれない。そして、閑散地域のローカル鉄道は、自動運転社会の要請に歩調を合わせる形で、BRTへ転換したほうが良いかもしれない。地方鉄道の活性化について、多くの人々が尽力し模索している。そこに水を差すようで申し訳ないけれど、そもそも鉄道であるべきか、という議論が、自動運転社会で問われそうだ。鉄道ファンとしてはさみしい未来だけど、実用面だけを考えると、鉄道は「大都市、都市間向けの設備だ」と改めて思う。
関連記事
- 池田直渡「週刊モータージャーナル」:自動運転の実用化で、社会はどう変わる?
ドライバーがハンドルを握らなくても、勝手に一般道を自動車が走る――自動運転技術の発展の結果、そんな未来がもう目前に迫っている。ドライバーが運転の責任を負わなくなったとき、社会は、日本はどのように変化するのだろうか? - 被災路線をあえて手放す、JR東日本の英断
JR東日本は山田線被災運休区間の地元自治体への譲渡を提案した。地元は鉄道を望み、JR東日本はBRTを固持してきた中、これがJR東日本からの最後の提案となるだろう。地元は素直に受け入れられないようだが、これがベストプランだと思われる。 - 池田直渡「週刊モータージャーナル」:Apple Watchは自動車の応用力を試す存在
世界で初めてApple Watchによるクルマのリモートコントロール機能を搭載したポルシェ。具体的に、Apple Watch+ポルシェでどんなことができるのか。そして、Apple Watch+クルマのコラボにはどんな未来があるのだろうか……? - オリンピックが開催されても、鉄道網が整備されない理由
2020年東京オリンピックの開催決定で、交通インフラの整備が活気づく。しかしJR東海はリニア中央新幹線の前倒し開業を否定、猪瀬都知事も鉄道整備に消極的だ。オリンピックは鉄道整備の理由にならない。それは1964年の東京オリンピックの教訓があるからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.