汽笛一声「愛の出発式」、SLブライダルトレインの魅力:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
日本旅行と大井川鐵道がブライダルビジネスに参入した。駅で結婚式を挙行した後、SL列車で宴会を実施するブライダルプランだ。鉄道ならではの仕掛けが満載。しかし趣味に偏らず、新郎新婦、出席者にとって、末永く記憶に残る結婚式となった。
鉄道結婚式ならではの演出
往路は主に食事タイムとなる。主賓挨拶と乾杯発声は車内放送で実施された。受付時に出席者に硬券の記念切符が配られており、新郎新婦がハサミを入れる。キャンドルサービスに代わる、鉄道らしい演出だ。通過駅の抜里(ぬくり)駅では、地元有志が歓迎の手を振る。高倉健さんの映画のように黄色いハンカチがいくつもはためく。新郎新婦も展望デッキで声援に応える。大統領専用列車のようだ。この後、列車は大井川の大鉄橋を渡る。川根路温泉の露天風呂から入浴客も手を振っている。丸出しのオジサンたちに新婦が顔を赤らめる光景だったことは特筆に値し……ないか。
ブライダルトレインの運行は大井川鐵道のWebサイトで告知されているため、沿線の人々からもお手振りやお祝いの声援が贈られた。“撮り鉄”も多数。シャッター音は聞こえないけれど、カメラマンからも「おめでとう」と「ありがとう」の声が届く。結婚式のおかげでSLの運行回数が増え、めったに走らない展望車も撮れる。喜ばしいことだ。
ブライダルトレインは地名駅で停車。ここで上り列車とすれ違う。同時にトイレ休憩も行う。客車のトイレは使用可能だけど、大勢で宴会となると設備が足りない。停車時間を長めに取ったおかげで、新郎新婦と出席者の歓談タイムにもなっている。
千頭駅に到着した後、機関車が客車から離れてホームの奥へ。ひな壇が組まれており、出席者の集合写真を撮影した。大井川鐵道の団体旅行向けのサービスだから滑らかに進行する。その後は約2時間の休憩、新郎新婦との歓談タイムだ。団体客待合所を使用可能。この日は構内にきかんしゃトーマスのヒロ、パーシー、ラスティが並び、子ども連れの出席者が楽しんでいた。転車台のSLの方向転換を見物する出席者も。
復路の出発20分前、機関車前に集合してケーキカット。そして新郎新婦が機関車の運転室に入り、汽笛吹鳴。人生の出発式である。SLブライダルトレインらしい演出だ。復路のメインイベントとして、展望車では有志が楽器を持ち込み、祝賀演奏会が開催された。優雅な時間である。
お座敷車両はデザートタイムで、テーブルにはケーキが並ぶ。出席者の子どもたちが空いた場所でカードゲームに興じている。これも期せずしてうまい仕掛けになっていると思う。厳かな結婚式だと、子どもは退屈してしまう。SLブライダルトレインなら車窓を楽しめる。汽笛や走行音が響く中では「静かにしなさい」なんて叱られることもない。
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