汽笛一声「愛の出発式」、SLブライダルトレインの魅力:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
日本旅行と大井川鐵道がブライダルビジネスに参入した。駅で結婚式を挙行した後、SL列車で宴会を実施するブライダルプランだ。鉄道ならではの仕掛けが満載。しかし趣味に偏らず、新郎新婦、出席者にとって、末永く記憶に残る結婚式となった。
旅行会社と鉄道会社、「誇り」あっての「奉仕」
新郎と新婦は大手電機メーカーの社員で、新郎は家電製品のデザインを、新婦は同じ会社で鉄道車両のデザインを担当していた。なんとなくアノ会社だな……と分かる(笑)。元々、新郎も新婦と同じ鉄道関係のデザインを担当しており、社内恋愛が実って結婚を決めたとのこと。トレインブライダルの希望は新婦からだったという。きっかけは業界紙に掲載された、大井川鐵道のトレインブライダルの記事だったそうだ。
列車で結婚式なんて、招待された人の反応はどうだろう。展望車で新郎新婦に聞いた。
「仕事柄かもしれないけど、君たちらしい結婚式だねって」
「ビックリされましたけど、喜んで出席していただけました」
そういえば、車内で披露された祝電で「蒸気機関のように熱い新婚生活を……」というフレーズがあり、笑顔を誘っていた。出席した人も、都合が付かなかった人も、トレインブライダルはいいネタ……失礼、印象が強かったようだ。
大井川鐵道はブライダルトレイン開催に当たり、営業中の新金谷駅にミニ舞台を設置するなど懐の深い対応をしている。列車の運行面では、発車、停車も静かで衝撃が小さかった。旧型の機関車と客車は連結器のゆとりが大きく、発進や停止のときに前後に揺れやすい。普段通りかもしれないけれど、列車の滑らかな挙動に鉄道員の丁寧な仕事がうかがえた。乗務した運転士、車掌、添乗員の表情もどこか誇らしげ。いい意味でプライドが高く、それが奉仕の心へ向かっているようだ。晴れの舞台を演出する喜びもあるだろう。
大井川鐵道はローカル鉄道だから、休日のダイヤにゆとりがある。そうはいっても、列車の運行は15秒刻みで計画されている。その制約の中で滞りなくイベントを進行できる。ここに数々の鉄道ツアーを手掛けた日本旅行のノウハウが生かされている。日本旅行のスタッフと大井川鐵道職員の連携も見事だ。ブライダルトレインのパッケージ化は、お客さまのメリットであると同時に、スタッフにとっても手順を習熟できるというメリットがある。
大井川鐵道は、都市のホテルのように交通至便ではない。しかし前述のように、東京や大阪から日帰りで参加可能だから、リゾートブライダルの分野では十分に成立するし、参加者に宿泊を強いるプランよりも実行しやすいと言える。肝心の「出席者の満足度」はどうだったか。一人一人たずねるまでもなかった。表情を見れば、結婚式も乗車も楽しんだ様子がよく分かった。
なお、5月17日に千葉県のいすみ鉄道でもトレインブライダルが開催された。「いすみ鉄道 社長ブログ」によると、旧国鉄急行形ディーゼルカーを使用し、地元のウェディングコーディネーターがプロデュース。車内でイタリアンのコース料理が振る舞われる。土休日は4カ月前まで。平日は2カ月前までの申し込みで対応可能とのこと。
人生は旅や線路、列車に例えられる。鉄道や列車には「出発の汽笛」など縁起の良いアイテムもある。今から今年のジューンブライドには間に合わないけれど、結婚を考えている二人にとって検討の価値ありだ。トレインブライダルは各地で流行るかもしれない。
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