狙いは何? トヨタとマツダ、“格差婚”の理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
5月13日、トヨタとマツダが技術提携を発表した。しかしこの提携はトヨタのメリットに比べ、マツダのメリットが非常に分かりにくい。謎の提携、マツダの本意とは……?
トヨタのスマイルカーブ戦略
トヨタは発表会などで「スマイルカーブ」について何度も説明してきた。「商品企画――開発――生産――販売」という一連の流れの時間軸を横軸に取り、それによって得られる利益を縦軸に取ると、両端の商品企画と販売では利益が出て、真ん中の開発や生産では利益が出ない。だからグラフは笑顔の口の形のようなスマイルカーブになるということだ。この戦術を取る代表はAppleで、商品企画と販売はするが、自社で工場を持たずに外注(ファブレス)化している。つまり利益の薄いところは外に投げてしまうわけだ。
トヨタのプレゼンを聞くたびに「日本を代表するモノ作り企業がそれでいいのか?」と思ったものだが、今回のマツダとの技術提携でそれを思い出したのである。
そういう整理をして、改めて今回の提携を見ると、トヨタにとってはやりたいことを叶えられる提携に見える。ではマツダにとってはどうなのだろうか?
現在マツダは、トヨタからハイブリッドシステムの提供を受けている。マツダにとっては燃料電池などの重厚長大なシステムを自社開発するのは荷が重いし、トヨタのように販売台数が見込めない以上、投資を回収することも難しい。経団連の会長職を何度も務めてきたトヨタと比べれば国や自治体に働きかけてインフラを整えるにも政治力が足りない。そこでハイブリッドや燃料電池についてはトヨタからシステム提供を受けるという選択肢になるわけだ。
同じハイブリッドシステムを使いながらマツダのアクセラは回生ブレーキのコントロールをより自然に仕上げるセッティングの丁寧さで、むしろオリジナルのトヨタより良くなっている。しかしそれでもマツダのアクセラ・ハイブリッドが売れているという話は、残念ながら筆者の知る限り聞かない。今後トヨタから提供を受けるであろう燃料電池でも、おそらく同じことが起きるだろう。
マツダは、一度倒産の瀬戸際まで追い詰められて復活してからは、自社のファンにターゲットを絞ったクルマ作りを行っており、嫌いな人には受け入れられなくてもいいとしている。それだけにマツダらしい個性が分かりやすいクルマ以外は売りにくい。それがハイブリッドであろうとも燃料電池であろうとも同じことなのだ。
トヨタはどこの製品であっても図抜けた販売力で力押しして売り上げを作り、設計や生産という利益の低い部門のコストを圧縮することでトータルの利益をより厚いものにしたり、設計や生産のリソースを新ジャンルに割ける見込みなのに対して、マツダが提携で得られるものはあまりに限定的なのである。
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