ベルリンの壁崩壊から26年 自動車メーカーの世界戦略はどう変わった?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
自動車メーカーのグローバル戦略が複雑化している。事業拡大に向けて、単純な合従連衡ではなく、各社の思惑や狙いなどが相互に入り混じった形でのアライアンスが目立つようになったのだ。
トヨタ自動車とマツダの技術提携の狙いについて、さまざまな憶測が飛び交っている。諸説が入り混じる理由の1つに自動車メーカーのグローバル戦略が徐々に複雑化していることも深く関係しているように思う。
そもそも2015年の今、自動車メーカーは何を目的にアライアンスを結ぶのだろうか。今回はそんなことを考えてみたい。
グローバル化以前の日米欧
振り返ってみると、今の状況につながる起点となるのは、ベルリンの壁崩壊だったと思う。それ以前の自動車メーカーは北米、欧州、日本の三極体制であり、原則的にはそれぞれの極の中をマーケットに考えていれば良かった。
例外は北米マーケットだけで、日本車は長い年月をかけて北米マーケットに進出し、既に1980年代には日米自動車摩擦を経験していた。一方で、欧州の多くのメーカーは、フォルクスワーゲンなど一部を除いて、巨大な北米マーケットにその橋頭堡を築くことができなかった。
日本車が米国マーケットで旋風を巻き起こした要因は、低価格に加えて、低公害、低燃費、高信頼性の4つが柱だった。元々、米国発祥のマスキー法(大気浄化法改正法)案を深刻に受け止めた日本政府と自動車メーカーは、米国マーケットをにらみつつ国内規制を米国に準拠させるべく1970年ごろから排気ガス規制に真剣に取り組み、1980年ごろにはこれを完全にクリアして新時代の高性能車を続々と世に送り出した。
排気ガスによる大気汚染の原因の多くは燃料の不完全燃焼なので、低排出ガスと低燃費、高効率(≒高出力)は原則的に同根なのだ。言葉は悪いが、米国に押し付けられた無理難題をクリアしたことで日本車は世界最先端の技術を身に付けた。
一方、米国ではGM、フォード、クライスラーのビッグ3がこのマスキー法をロビー活動で徹底的に骨抜きにした。その結果、皮肉なことに彼らは技術的ジャンプアップの機会を失ったのである。結局、米国の排ガス規制がマスキー法の想定していた規制レベルに達したのは1995年のこと。その間に、少なくとも小型車マーケットでは日本車と戦えるだけのポテンシャルを完全に失ってしまった。
それでも自動車生産国としての北米のプレゼンスを大きく落とさずに済んだのは、日米自動車摩擦の結果、輸入枠規制のソリューションとして、日本のメーカーが北米で現地生産を始め、他国のメーカーもそれにならったからだ。そういう意味では自由主義諸国の旗頭である米国が、その国是を曲げてまで輸入枠を設けて日本車を締め出したことが、結果的に他国の自動車生産工場を呼び込んで、自動車生産国としての米国の地位を保証するという、皮肉ではあるが幸運な結果をもたらした。
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