ポカリ6億本の流通を止めない秘策、大塚倉庫の「ID戦略」とは?:売り上げ倍増へ(2/4 ページ)
ポカリスエットやオロナミンC、ボンカレーなど、大塚ホールディングスの多種多様な商品を全国の消費者に届けるべく、その物流業務全般を担うのが、グループ会社の大塚倉庫だ。近い将来、現状の倍となる売上高1000億円を狙う同社が推進する事業改革に迫った。
「ID倉庫」で物量増に対応
収益拡大の一方で、頭痛のタネとなってきたのが物量の増加である。わずか数年間で商品アイテム数は2.5倍も急増し、2013年時点でアイテム数は4100点、ケース数は1億6000万個となった。目標である売上高1000億円に向けて、2023年にはアイテム数を3万点、ケース数は4億7000万個になる見通しを立てているため、それだけの物量に耐え得る物流の仕組み作りが不可欠となったのだ。
膨大な物量をさばくには、物流作業の効率化によるスピードアップが強く求められるが、同社はこれに加えて医薬品を扱っているため品質の担保も重要だった。さらに物流業界全体の人手不足という問題もある。今まで同社は属人的な業務が多く、覚えるのに数年かかるものもあった。「昨日まで働いていた人が辞め、新人が入ったからといって、すぐに戦力にはならない」と西牟田本部長は指摘する。
そこで着想したのが「ID倉庫」という独自のコンセプトだ。米Appleのタブレット端末「iPad mini」に専用のITツールを導入し、入庫から保管、ピッキング、出荷に至るまで倉庫作業のデジタル化、可視化を目指した。ちなみにIDという言葉はプロ野球・野村克也元監督が提唱した「ID野球」からヒントを得たのだという。
同社の物流倉庫は全国に複数拠点を構えるが、最も出荷量が多いのが、東京23区を含む南関東エリアをカバーする浦安配送センターである。敷地面積1万坪におよぶ同センターでは主に飲料品と医薬品を取り扱う。2012年にID倉庫の仕組みをいち早く実装して以降、効果は目に見える形で出ている。
これまで同センターでの作業において、特に難しいとされていたのがピッキング作業だ。倉庫内のロケーションを把握し、どこにどんな商品が置いてあるかをすべて覚える必要があったからである。当然時間がかかる上、中には複雑な商品番号を持った海外メーカーの商品など専任の従業員にしか扱えないようなものも存在したという。
それが今ではロケーション情報が細かくiPad上に表示されるため、従業員は迷わず最短距離で作業すべき商品にたどり着くことができるほか、ピッキング作業も基本的にはバーコードによるスキャンとタブレット上でのボタンクリック程度で済むので、「新人が急に入ってきてもすぐに作業ができるレベルになっている」(同社 浦安配送センターの益岡直樹課長補佐)。従業員はiPadでの指示通りに気楽に作業できるようになったという。
効果のもう1つはペーパーレス化である。これまではピッキング作業リストをはじめ、毎日800枚ほどの紙を倉庫で出力、使用していたが、iPadの導入でゼロになった。また、従業員が同じ内容の紙を持っていたため、作業の重複がたびたび発生していたという。作業ごとにその都度紙を事務所まで取りに行くのも負担が大きかった。「今ではすべて作業はデータで進ちょく管理できるほか、従業員は自分のiPadに作業内容データが飛んでくるので、わざわざ倉庫から移動する必要もなくなった」と益岡課長補佐は説明する。
さらに作業はすべてログデータを取っているので、例えば、荷物の破損などのトラブルがあった際にも、いつ、誰が、どこで、どんな作業をしたかをトレースし、すぐに原因究明できるようになった。以前は約半日もかかっていたそうである。
2015年内にはこのID倉庫の仕組みを全国すべての配送センターに導入する計画だという。
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