「変わらなきゃ」から20年 日産はどう変わったのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
昔からの日産ファンにとって、近年の同社の状況は何とも物足りないと感じているのではないだろうか。なぜ日産はこのように変わってしまったのか。
変わらなきゃから20年
日産は2010年に発売した新型マーチから戦略をシフトした。ヴィッツやフィット、マーチなどのいわゆるBセグメントは、選択すべき方向性が2つある。
1つは先進国向きのコンパクトカーで、いわゆるセカンドカー需要に対応するものだ。何台もクルマを乗り換えてきた目の肥えた顧客に向けたクルマのため、質の高さが求められる反面、リヤシートの実用性はそれほど求められない。大人数で移動するなら大きいクルマを使えばいいからだ。だからボディサイズが小さく取り回しが良いことや、快適機能、安全性能の充実、デザインの良さが大切になってくる。
一方で新興国向けのマーケットでは事情が違う。一番に求められるのは安さで、次に車体の大きさだ。一張羅で全てをまかなうので、リヤシートの実用性は高くなくてはならない。
意外に思われるかもしれないが、デザインはかなり金食い虫で、流麗なプレスラインを作るためには高度で複雑なプレス作業が必要なだけでなく、ボディ鋼板の性能の高さも求められる。安価な素材だと複雑な形状を再現できないのだ。
そして、ぶつからないブレーキをはじめとするさまざまな安全装備のための電子制御もまた金食い虫だ。昔は後付けでポンと乗せられた安全装備も、現在では設計段階から組み込まれており、安全デバイスの有無を簡単に行き来しにくくなっている。
だから先進国向けと新興国向けを兼用することができない。トヨタのヴィッツ、ホンダのフィット、マツダのデミオは先進国にターゲットを絞り、日産のマーチと三菱のミラージュは新興国をターゲットにした。特にデザインを新興国の素材と加工技術で作れるように配慮し、車両価格を安価にすることに選択と集中したわけだ。
どうも日産は既に日本の日産ではなく、グローバルマーケットでのトータル利益を重視しており、日本はマーケットとしての魅力があまりないと思っているように感じる。冒頭に、日産は中型車を得意としていたと書いた。シーマ、セドリック、グロリア、スカイライン、ローレル、セフィーロ、ブルーバード、バイオレット(後継はプリメーラ)あたりのEセグメント、Dセグメントモデルはトヨタを除いて壊滅状態にある。
仮に日産が日産らしいクルマを作りたいとしても、マーケット側に受け入れ余地がない。一部のファンが無い物ねだりをしても作れない状況になっている。「変わらなきゃ」とはそういう旧来型のクルマと決別して全く新しいビジネスを構築し直すことを目指していたわけだから、その着地点である現在の方針に「俺の日産を返せ」と言っても始まらないのだ。
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