北米で絶好調のスバル、しかし次の一手が難しい:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
年間100万台の生産――これは小規模な自動車メーカーの1つの挑戦目標となっている。この数字に挑もうとしているのがスバルだ。北米マーケットでは「アウトバック」が好調。だが、目標達成に向けてはいくつもの壁を乗り越えなくてはならない。
欧州マーケットは1つに見えて、実は2つのマーケットだ。旧EU圏の富裕層に代表される先進国マーケットと、旧東側諸国と移民層のような低所得層の新興国型マーケットが重なり合っており、なおかつ経済成長によって、先進国マーケットが広がりつつある。
ところが、旧EU圏マーケットは保守性が高く、富裕層はなかなか新しいブランドに飛びついてはくれない。日本でこそ熱烈なファンのついたスバルだが、欧州ではまだブランドバリューが十分に築けていない。他方、低所得層向けマーケットでは厳しくバリューフォーマネーが問われる。富裕層にアピールしたければ確固たるブランドが、低所得層にアピールしたければ徹底したバリュー戦術が求められ、それはどちらもスバルが持っていないものだ。
日産は1983年にスペイン、翌年に英国に工場を立ち上げた。トヨタは1968年にポルトガルに工場を立ち上げているが、これは商用車工場で流れ的に別物だ。乗用車工場としては1992年に英国、1994年にトルコ、2001年フランス、2002年ポーランド、2005年チェコ、2007年ロシア、2014年カザフスタンと、マーケットを睨みながらエリアごとに戦略的に工場を立ち上げている。そうしてブランドバリューを築き上げてきたのだ。
トヨタの動きを見ると分かりやすいが、特に1989年のベルリンの壁崩壊以降(関連記事)、コストの安い旧東欧圏を中心に工場を作り、コスト戦略を織り交ぜながら長い時間をかけてマーケットを切り開いている。欧州マーケットはブランド認知に極めて時間がかかるマーケットなのである。
さらに難物なのがアジアだ。エリアが同じだからと言って商品的に同じマーケットとみなすことはできない。明らかに先進国マーケットである日本と、新興国の期待の星としてモータリゼーション黎明期を迎えたインドは両極端だがまだ分かりやすい。しかし中国が難しい。局部的には先進国マーケットに成長し、一方でまだまだモータリゼーションが始まっていないエリアもあるまだらな市場なのだ。
しかも、中国では人件費がうなぎのぼりで、もはや生産拠点としての旨味がほぼなくなりつつあるのは周知の通りだ。加えて共産党のさじ加減で何が起こるか分からないことも大きな不安要因となっている。実際、ここ数年、日本車には逆風が吹いており、北米で大成功したスバルも、中国では前期実績を下回っている。バラ色でないことを知りつつも100万台を狙うなら簡単に切り捨てるわけにもいかないマーケットが中国なのである。
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