北米で絶好調のスバル、しかし次の一手が難しい:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
年間100万台の生産――これは小規模な自動車メーカーの1つの挑戦目標となっている。この数字に挑もうとしているのがスバルだ。北米マーケットでは「アウトバック」が好調。だが、目標達成に向けてはいくつもの壁を乗り越えなくてはならない。
高付加価値メーカーたるゆえん
さて、こうした世界のマーケットに対して、スバルはどうアプローチすれば100万台を突破できるのか。
スバルといえば、水平対向エンジンとAWD(全輪駆動)、ぶつからないブレーキの「アイサイト」が3本柱になっており、北米でも日本でもその3つがスバルのキャラクターを決めている。
さてその柱の1つ、水平対向エンジンは部品点数が多い。単純な話、ヘッドもシリンダーも2つある。基本的に高コスト体質エンジンなのだ。これは2つ目の柱であるAWDも同様で、最新の電制システムを使うような高性能AWDはやはりメカニズムの素養そのものが高コストになる。スバルは現在、AWDのシステムを松・竹・梅と3種類持っているが、当然高いものほどスバルらしい高度なシステムとなっている。マーケットで商品の個性をアピールしようと思えば最低限真ん中の電制システムを使いたくなる。
日本のスバルファンのように、スバルの個性的な技術を高く評価してお金を払ってくれるユーザーばかりなら苦労はないが、「水平対向でも何でもいいから安くしろ」という層も世界規模でみたら膨大な数がいて、その層にアプローチしていくことが今のスバルにはとても難しいのだ。
スバルのラインナップを眺めて見ると、トップレンジには「レガシィ」があり、これがセダンの「B4」とワゴンの「アウトバック」としてバリエーション展開され、7人乗りニーズに対応する「エクシーガ・クロスオーバー7」がある。その下には「レヴォーグ」、「フォレスター」、「XV」、「インプレッサ」、「BRZ」、「WRX」と数多くのモデルが展開されるが、これらは全てインプレッサのシャシーがベースになっている。
インプレッサは明らかに先進国用のCセグメントであり、ラインナップ上最も安いインプレッサでも約160万円からという値付けだ。新興国の売れ筋は100万円を切るBセグメントなので、クラス上のインプレッサベースでそれらと価格で渡り合うのは不可能に近い。Bセグメントを持たないスバルには厳しい状況だ。
関連記事
- ベルリンの壁崩壊から26年 自動車メーカーの世界戦略はどう変わった?
自動車メーカーのグローバル戦略が複雑化している。事業拡大に向けて、単純な合従連衡ではなく、各社の思惑や狙いなどが相互に入り混じった形でのアライアンスが目立つようになったのだ。 - トヨタの天国と地獄――GMとフォルクスワーゲンを突き放すTNGA戦略とは?
世界一の自動車メーカーの座を賭け、GMやフォルクスワーゲンと三つどもえの戦いを繰り広げるトヨタ。2008年に赤字に転落して以来、失敗をしゃぶりつくす精神でトヨタが編み出した戦略、TNGAの真の意味とは……? - 新型マツダ・デミオが売れた3つの理由
マツダの新型デミオ、特に「SKYACTIVE-D」搭載のディーゼルモデルが売れている。「売れているのはハイブリッド車ばかり」な日本でなぜ新型デミオは売れるのか? その理由とは……。 - スバルはなぜWRCから撤退するのか――社長会見を(ほぼ)完全収録
富士重工業は12月16日、WRCのレース活動からの撤退を表明した。3度のマニファクチャラーズ部門優勝を果たした名門が撤退の決断を下した背景にあったものとは何なのか。森郁夫社長が登場した記者会見の詳細をお伝えする。 - 池田直渡「週刊モータージャーナル」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.