スズキが“世界自動車戦争”の鍵を握る理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
他社に先駆けてインド市場に進出したスズキは、今や世界中の自動車メーカーから羨望の眼差しを浴びている。同社の成功の裏側にあったものとは……?
インドマーケットのポテンシャル
こういう技術背景がスズキの核にある。その上で2015年現在、スズキを世界でも特別な会社にしているのはインドマーケットでの先駆者利益だ。スズキは世界中のメーカーが見向きもしなかったインドに誰よりも先に進出し、モータリゼーション発展のための種まきを長きに渡って続けてきた。その成果として今、インドの自動車マーケットを牛耳っているのである。世界中のメーカーがなぜスズキをうらやみ、場合によっては自陣に引き込もうとするのか。その理由はインドにあるのだ。
本連載でも繰り返し述べているが、世界の自動車マーケットは3極体制だ。欧州、北米、アジアの基本に加えて南米とアフリカが成長中で、いずれ5極になると言われている。この中で、成長率を指針に見てみると、現時点で飛び抜けているのはアジアである。欧州はそれなりに伸びているし、北米も現在は上昇局面にあるが、「向こう10年の伸び率でどこが重要か」と問われて「アジア」と答えない専門家は非常識だ。それくらいアジアの成長率は飛び抜けている。
では、アジアの成長株はどこか。日本、と言いたいところだが、日本のマーケットはシュリンクしており、残念なことに誰一人としてアジアの成長エンジンだとは思っていない。もちろん軽自動車を含めて年間530万台を売るマーケットを無視できないが、それはあくまで守りであり、攻めではない。
では中国かといえば、中国はまた難しい。販売台数でみると2000万台を超えており、米国の1500万台、日本の500万台と比べるといかに巨大マーケットであるかが分かる。しかし、伸び率はもはや7%と、かつて2桁成長を当然としていたほどの勢いはない。一方で、ナンバープレートの交付が抽選になっているなど、共産党の制約が解ければまた往時の勢いを取り戻しても不思議はないのだが、交付規制の裏にはPM2.5(微小粒子状物質)の問題があり、国際的な批判にさらされる中、そう簡単に自動車の自由販売に踏み切れる状態でもないのだ。
こうした中で、インドマーケットは世界中の自動車メーカーから熱い注目を集めている。インドの年間販売台数はまだ300万台に満たないが、既にモータリゼーションの黎明期に達しており、今後のマーケット拡大はもはやよほどのことがない限り揺らがない。その上、人口は12億人。中国の14億人にこそ及ばないが、まだまだ人口は増え続けている。いずれ中国を抜くとの予想もある。つまり世界で最も成長しているアジアマーケットにおいてその最大のけん引力になりそうなことがほぼ固まってきた次世代の最重要マーケットがインドなのである。
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