Androidは「必ずやる」――セカイカメラの今後を探る
バージョン2.0の登場以降、セカイカメラは、“公式エアタグ”のさらなる充実や、API公開による派生サービス、さらに対応デバイスの拡大によって、ユーザーの拡大を目指す。「本質的な部分を提供できていない」という現状から、どんな進化を遂げていくのだろうか?
12月2日、頓智・(とんちどっと)がiPhone向け拡張現実(AR)サービス「セカイカメラ」の次期バージョン“2.0”や企業との取り組みを紹介する「Sekai Camera SUKIYAKI 2009 Tokyo」を開催した。新バージョンでは、ユーザー同士がコミュニケーションするための機能を大幅に強化(詳細記事)。さらに世界7言語、77カ国に対応し、アプリが正式に国境を越えることが発表された(詳細記事)。App Storeのリリースは「近日中」とのことだが、新バージョンの世界展開が「12月中を目処に」行われる予定なので、年内には配信が開始されるはずだ。
セカイカメラは「本質的な部分を提供できていない」
「本当にできるのか」といぶかしむ声も出る中、セカイカメラは2009年9月24日にデビューし、ユーザーは“街中にエアタグが浮かぶ”世界を体験した。都心では街一帯がエアタグで埋め尽くされる地域も出るなど大きな話題を呼んだが、一方で「有用な情報が少ない」「起動が遅い」「コミュニケーションができない」といったさまざまな声が頓智・に寄せられた。日常空間でのARを身近なデバイスで実現したという点で、セカイカメラ 1.0は成功を収めたといえるが、このままの状態では今後の活発な利用は望めないだろう。
「“セカイカメラでしかできない”という本質的な部分を、現状ではまだまだ提供できていない」と頓智・の井口尊仁代表は語る。今回披露されたバージョン2.0では、Twitterによく似たコミュニケーションシステム「Sekai Life」を追加し、利用の活性化を狙う。Sekai Lifeの機能を使うと、自分や登録したユーザーの情報に関しては場所を問わず閲覧や返信などができるようになり、自分のエアタグに対する周りの反応も簡単に見られるようになっている。
この新機能によって“その場所に行かなければアクションできない”というストイックな仕様は若干緩まったが、「ヒア アンド ナウ」のポリシーを捨てたわけではない。2010年2月に公開予定の、他社サービスとの連携を実現する「Open Air API」では、どこまでの情報を提供するかを「ゲームデザインのバランス感覚」で検討すると井口氏は話す。セカイカメラをARのオープンプラットフォームとして開放する一方、“リアルにとらわれず何でもできる”サービスには慎重だ。
“玉石混交”のエアタグに変化
現在のセカイカメラは、Yahoo!のランドマーク情報を除き、ほとんどのエアタグがCGMで成り立っている。CGMならではのカオスで玉石混交な世界観は、他のARサービスでは見られないセカイカメラの魅力でもあるが、今後は情報をふるいにかける手段も充実させ、「ゴミが多い」といった不満に答えていく。
まず2.0では、企業の公式エアタグである「Authorized Tag」の項目がフィルターに追加され、企業や行政が提供する“確かな”情報を抽出することが可能になる。Authorized Tagはこれまで、ファッションブランドのロエベや、京都国際マンガミュージアム、岐阜県高山市の観光コースなどで導入されてきたが、新たにみんなの経済新聞ネットワークが配信する地域ニュースや、ゼンリンデータコムの地図ソリューション「e-map」が有する店舗情報、楽天トラベルの宿泊施設情報などがエアタグとして提供されることがイベントで明かされた。楽天トラベルの取り組みはすでに開始がアナウンスされているほか、e-mapの情報登録も進んでいるようで、例えば丸の内付近でセカイカメラをかざすと、ゼンリンデータコム本社の公式エアタグが確認できる。こうした企業のエアタグはAPIの公開でより簡単に実現するようになるだろう(詳細記事)。
また、Googleのページランクのように情報の重要性を判定する「Sekai Ranking」についても井口氏は言及。「現在のセカイカメラは検索エンジンが生まれる前のインターネットのようなもの」と同氏は話し、有用な情報が目立つような仕組みを今後のバージョンで実現していく姿勢を見せた。
セカイの“切り替え” プラットフォームの拡大 モラルの問題
2.0でエアタグの種類はさらに多彩になり、今後もiTunesや他のアプリと連動するさまざまなエアタグが登場する予定だという。こうした多様化の先に待っている新しいサービスが、“世界観”を切り替えるための「Sekai Switch」だ。Sekai Switchを使うと、例えば通常のエアタグ世界から、電脳ペットの世界、宝探しの世界といった具合に画面のコンテンツを切り替えることが可能になる。こうした機能が本格的に実現すれば、キャラクターやアバターなどの販売、ゲームのアイテム課金といった広告以外のビジネス展開も現実味を帯びてくる。携帯電話のGPS機能を使ったいわゆる位置ゲーは、近年利用者が増加しており、地域限定のアイテムが集客のフックになるなどビジネス面でも注目を浴びつつある分野だ。
ただ、現状では収益化の面は「正直言ってまだまだ」と井口氏は話す。独自の体験性を確立することに加え、「何百万人でなく、何億人というスケールにサービスを広げていかなければいけない」と、世界規模でユーザーを獲得した後に、本格的なビジネスが始まるとの考えを示した。
ユーザー数を増やすためには、対応デバイスを増やす必要もある。Android版はすでにデモンストレーションも公開されており、近い将来正式版が登場するはずだ。また、頓智・はセカイカメラ専用デバイスの実現も目指している。
さらに日本の主流端末である“ガラパゴスケータイ”にセカイカメラが対応するかどうかも、今後の展開として気になる点だろう。この疑問に対して井口氏は「未定」と答えたが、たとえカメラ映像のオーバーレイ表示などの実現が難しいとしても、“簡易版セカイカメラ”のようなサービスを展開する可能性はあるはずだ。
また、サービスの規模を広げていけば、誹謗中傷といった問題のあるエアタグにどう対処していくかといったことも重要になってくる。現状ではクレームはないというが、今後そういった問題が出ることに備えて、「Sekai Rankingをはじめ、ユーザーにとって価値のある状態を作る自動フィルターのような仕組みに真剣に取り組んでいる」と井口氏は説明する。「例えばTwitterはノイズもゴミも多いが、基本的には自分のフォローしたユーザーの情報しか表示されない仕組みのため、見たくない情報は見なくてすむ。セカイカメラにおいても、自分が見たくないような情報を表示しない、“良いビュー”の提供を目指す。人力で全件チェックといった手法では、FacebookやTwitterといったスケールするサービスは回らない」(井口氏)。自由な空間を維持しつつ、ユーザーを傷つけるような“衝突”の起こりにくいシステムを作り出していくのが、同社の姿勢だ。
NTTドコモがAndroid端末「HT-03A」を投入し、iPhoneを販売するソフトバンクモバイルも2010年春にAndroidを投入することを宣言。さらにKDDIも2010年中にAndroid端末を発表する予定で、3キャリアでセカイカメラを利用できる日もそう遠くはなさそうだ。ユーザーを“驚かせた”次のステップに向け、2010年はセカイカメラの本領が試される年になるだろう。
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