青少年のネット依存を考える(2):小寺信良「ケータイの力学」
日本以上にネット依存が深刻化している韓国。その実態はオンラインゲームへの依存であり、いくつかの法的な取り組みも進められている。
前回から、青少年のネット依存の現状として、韓国の例を調査している。ネット依存がもっとも深刻化しているのが韓国であるという事は前回も述べたが、まずはその実態を把握しておきたい。
10月22日に放送された、NHKの「クローズアップ現代」では、日本における“コミュニケーション依存”の問題が取り上げられていた。その文脈の中で、韓国のコミュニケーション依存に対する取り組みが紹介されていたが、現実には韓国のネット依存の中心はオンラインゲームに対するものであり、これが全体の7~8割を占める。これからそのことを述べていくが、韓国のゲーム依存は、コミュニケーション依存とは比べものにならない深刻さだ。番組を見て、韓国が日本と同じコミュニケーション依存の問題が中心のように誤解した人も居るようだが、韓国で最大の問題はオンラインゲーム依存である点に注意していただきたい。
韓国情報化振興院が、韓国独自のネット依存尺度である「K尺度」を用いて国民のネット依存度を測定したところ、9歳~39歳のネット利用者のうち、約8%に上る174万人がネット依存であるという結果が出たという。2年間の推移では確かなことは言えないが、傾向としては中高生の依存率は減少傾向にあるが、大学生の急増と小学生の増加に懸念点がある。
この段階で、ネット依存の低年齢化が懸念されていたが、2011年の別の調査では、5歳~9歳までの幼児の依存率が7.9%にも上り、成人(20歳~49歳)の6.8%を上回っていることが分かった。
一方、未成年者としてカウントされている10歳~19歳は10.4%と、改善が進んでいることが分かる。これは法規制や治療の結果が出ていること、成人と違って青少年の場合は、比較的ほかのものへ興味を移しやすい点などが考えられる。
幼児のネット依存率が高まってきているのは、幼児のネット利用率が増加してきていることの裏返しである。2010年の調査では、3歳~5歳のネット利用率は、66.2%にも上る。このような高い利用率の背景には、韓国がe-ラーニング大国であり、家庭内で子どもにネットを使わせる環境が整備されていること、スマートフォンやタブレットの普及により、幼児でもある程度の操作が可能になってきたことなどが考えられる。
ネット依存になる原因
韓国の研究では、青少年がネット依存になる要因として、次の4つが考えられている。
- 心理的要因:低い自尊心、憂鬱、不安、疎外感、対人恐怖
- 家庭環境的要因:親が権威的、放任主義、コミュニケーション不足、父母が依存傾向、家庭崩壊
- 社会環境的要因:厳しい学歴社会、社会的ストレス、代案となる遊び文化不足、健全な情報文化の未形成
- ネットの特性上の要因:匿名性、利便性、即時応答性、相互作用性
1の「低い自尊心」については、少し説明が必要だろう。リアル社会においては、自分の努力に比例した形での成果が得られないのが普通である。例えば一生懸命勉強したのにテストでいい点数が取れなかった、勇気を出して告白したのにフラれた、といったように、自分の思い通りの成果が得られないことは、日常的に起こりうる。
一方ネットやネットゲームの世界では、長時間のめり込んだり、高いアイテムを購入するといった自分の行為(努力)に対して、リニアに成果が得られる。したがって、次第に現実社会が面倒になり、容易に自分の評価が上がりやすいネットのほうに傾倒していく。現実社会で思うように成果が上がらない子どものほうが、よりネット依存へ傾く傾向が強まるわけである。
2の「親が権威的」というのは、韓国社会の特徴的な部分である。これはおもに父親が家族の中で絶大な権限を持っており、厳格に子どもを管理したがる傾向が強いところに起因する。特にネット利用に関しては、ペアレンタルコントロールの一環として、子どもが決めた時間外にネットを使おうとすると、PC内の監視ソフトが親宛にメールで注意喚起を促すような仕組みが、ごく普通に稼働している。これは日本ではあまり見られない傾向である。
また別のデータとして、低所得家庭の子どもほど依存傾向が高いという結果も出ている。これも、親が忙しいことで放任状態になったり、コミュニケーション不足になったりする事と繋がるだろう。
3の社会環境的要因については、韓国独自の習慣や社会の問題であり、これがそのまま他国でも当てはまるとは限らない。一方4のネットの特性上の要因については、世界共通の問題であり、注目すべきポイントである。
このような状況を打開するために、韓国ではいくつかの法制度を導入した。1つは、16歳未満は0時から6時までのオンラインゲーム利用を強制遮断する「強制的シャットダウン法」で、俗にシンデレラ法と呼ばれている。これに加えて16歳から18歳未満までの青少年に対しては、父母が要請する特定時間帯を遮断する「選択的シャットダウン法」もある。
さらに最近では、オンラインゲームを連続して2時間以上するか、一日4時間を越えるとゲームサイトへの接続を遮断する「クーリングオフ」も、制度として導入の検討が進んでいる。
このような法的取り組み、あるいはリハビリ施設などの教育的取り組みは、青少年には一定の効果が認められる。しかし幼児に対しては、家庭環境が改善しない限り、抜本的な解決は難しい。
次回は、米国で心理学をベースに進められている調査・研究をご紹介する。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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