ノートやペンと連携? 拡大する「スマホ文具」の現在:佐野正弘のスマホビジネス文化論
スマホのカメラでスキャンできるノートや、タッチパネル操作をしやすくするペンなど、スマホと連携する“文具”が増えている。その背景にはどのような要因があるのだろうか。
スマートフォンの広まりによって登場したアイテムの1つに、スマホと連携することを前提とした“文具”がある。スマホのカメラで撮影すると、歪みや傾きなどを整えて、デジタルデータとして保存できるノートなどが、その代表例だろう。
スマホ連携文具が生まれた背景
フィーチャーフォン全盛のころ、“ケータイと連携する文具”という製品はほぼ存在しない状況であったが、スマホの広まりに合わせて、連動する文具は急速に拡大している。その理由にはいくつかあるが、一番はやはりアプリ開発の自由さにある。先に挙げた“カメラで取り込めるノート”を実現できたのには、スマホのアプリからカメラを制御したり、取り込んだ画像を直接制御したりできるようになったことが大きい。
そしてもう1つの要因は、スマホがビジネスに役立つツールとして利用されるようになったことだ。フィーチャーフォンではWebブラウザやWebサイトの環境がPCと大きく異なっていたことから、ビジネスシーンでの利用は通話やメールなどのコミュニケーション用途にほぼ限られていた。それに対しスマホでは、PC向けのWebサイトやOffice文書がそのまま扱えることから、PCをフル活用していたビジネス層がこれに飛びつき、情報収集やスケジュール管理などにも活用利用するようになった。そうした変化をメーカーが読み取り、スマホ対応文具を登場させたといえる。
そして現在、スマホユーザーはビジネスマンから若年層、学生へと大きく広がっている。それゆえスマホ対応文具も、対象の幅をビジネスマンの仕事向けアイテムから学生の勉強用途へと、その幅を広げてきているようだ。
定番となり種類も増えた“スキャンできるノート”
スマートフォン対応文具の代表的な存在となるのが、先にも触れた、スマホのカメラで撮影することで、紙に書いた内容をデジタルデータとしてスキャンできるノートだ。
こうしたノートの多くは、紙の四隅に独自のマーカーが用意されているか、カバーなどで周囲がノートとは別の色で囲まれる形となっているものが多い。これらマーカーや色などを元に、専用のアプリを用いて撮影したノート写真の歪みや傾きなどを補正することで、紙のノートを同じ形で、デジタルデータとして保存できる訳だ。紙に書いた内容が手軽にデジタル化できる気軽さと利便性で、人気となっているようだ。
こうした仕組みを備えるノートの先駆けが、キングジムの「SHOT NOTE」シリーズだ。2011年2月に発売して以降大きな話題となり、2012年9月には、シリーズ累計200万冊を突破するに至っている。そのSHOT NOTEは、当初メモパッドタイプのみであったが、現在はノート型やルーズリーフ型、さらにはホワイトボードに貼り付けて利用できるタイプのものや、ノート型の携帯ホワイトボード「NUboard」とコラボレーションしたモデルまで登場。その幅を広げている。
さらに最近では、マーカーなどの仕組みを備えていないノートや紙などを、手軽に取り込める仕組みを備えた文具も登場している。同じキングジムの例を上げると、名刺や書類などをファイルに入れてからスマートフォンで撮影し、デジタル化できる「SHOT DOCS」や、挟んだノートにしおりひもを留めてから撮影し、デジタル化できるノートカバー「SCANNABLE NOTE COVER BY SMART PHONE」などがある。
紙ではなく“ペン”を活用したデジタル化も
紙に書いた内容をスマートフォンに取り込む文具は、ノートだけではない。専用のアプリを用いて、囲んだ部分だけをスマートフォンにスクラップできる、スマートフォンと連携可能なペンもいくつか存在する。
その一例として、写真アルバムで知られるナカバヤシが提供している「smareco PEN」を上げてみよう。これは、新聞などの切り抜きたい場所を専用のペンで囲み、それをスマートフォンのカメラで撮影することにより、囲んだ部分だけが綺麗にスキャンされるというもの。smarec PENは先端が2つに分かれており、引いた線がクロスした場所をアプリ側で認識することにより、切り抜きや補正などをする仕組みのようだ。
ちなみにナカバヤシは、ペンを活用した新しい取り組みとして、今年1月には「smareco MARKER」の提供を開始している。これは、参考書などの暗記したい場所にマーカーを引き、それをカメラ経由でスマートフォンに取り込むと、マーカーを引いた場所の表示・非表示が切り替えられるというもの。アプリ上からマーカーを追加したり、削除したりするなどデジタルならではの機能が備わっているのも特徴的だ。
“ペンで手書き文字を取り込む”別のアプローチとして、書いた文字を記録し、それをスマートフォンなどにデジタルデータとして保存できるデジタルペンも、最近増加傾向にあるようだ。専用のユニットを用いた「TegakiLink Personal」や、ペン自体にWi-Fi機能を備えた「Livescribe」などは、そうしたペンの代表例といえるだろう。
“パズドラ用”も登場、高機能化が進むスタイラスペン
スマートフォン向けのペンとしてもう1つ、タッチパネルを操作する“スタイラスペン”も、人気ある文具の1つといえる。現在発売されているスマホのほとんどは静電式のタッチパネルを採用しており、タッチパネルでは仕組み上、ペン先を太くする必要がある。そうしたことからスマホ向けのスタイラスペンは、導電素材を用いた専用のものが必要であり、メーカーの工夫のしがいがある分野でもある。
すでにスタイラスペンは多くのものが発売されており、デザインやペン先の素材にこだわったものなど、さまざまな種類のものが用意されている。書き心地にこだわったものとしては、「7notes」などで知られるMetaMojiが開発した「Su-Pen」が知られているが、そのバリエーションとして最近では、「パズル&ドラゴンズ」とのコラボレーションモデル「パズドラ!タッチペン」なども登場している。
一方で、最近特に進んでいるのが“多機能化”である。ボールペンやシャープペンなど、他の種類のペンとスタイラスペンを組み合わせたものが、特に文具メーカーから多く発売されているようだ。
“手書きのデジタル化”とは異なる価値の実現が次の進化に
スマートフォンと連携する文具は現在も増加傾向にあるが、一方で課題も見えてきている。ここまで紹介してきたように、文具の多くは“紙に書いたものをデジタル化する”、つまりスキャナーの代替といえるものが多い。それだけ手書きのデジタル化に対するニーズが高いともいえるが、一方でスキャナーとして以外の価値を提供する文具は、まだあまり現れていないように感じる。ゆえにスマートフォン対応文具が一層進化するには、スキャナーとして以外の価値を実現する文具が、どれだけ多く登場するかにかかっているだろう。
無論、そうした可能性を示す文具がいくつか現れている。その一つが、カンミ堂の「ピコットフセン」だ。これは、QRコードが印刷された付箋に、スマートフォン内の画像を紐付けるというもの。専用アプリでQRコードを撮影すると、紐付けた写真がすぐ呼び出せることから、日記などに貼り付けておき、後から思い出を振り返るなどの使い方に適している。
また専用のシールを貼り付けておくと、スマートフォンで映し出すことで動画付きのメッセージが再生できる、ARを活用したエレコムの「ARグリーティングカード」「ARコードシール」のようなアイテムも、市場に登場している。文具が切り開く可能性は、まだまだ大きいといえよう。
また、現在はカメラを連携に活用するものが多いが、スマートフォンには他にもイヤフォン端子やマイク、NFCなど、外部機器との連携に活用しやすいさまざまな機能が用意されている。こうした仕組みを活用し、より便利で楽しいスマートフォン対応文具が登場してくることを期待したい。
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