“保護”から“ファッション”へ変貌 盛り上がるスマホケース市場:佐野正弘のスマホビジネス文化論
ケータイからスマートフォンに移行とともに、本体を飾るアクセサリーも大きく変化した。現在、スマホのアクセサリーとして全盛を極める“ケース”の文化と、そのビジネスの現状を追ってみよう。
携帯電話やスマートフォンは常に持ち歩くアイテムである。毎日身に付け持ち歩くものなら、自分の好みにあったものを使いたい。これは自然なことであり、女性を中心に、ファッション性を意識してケータイやスマホをアクセサリーで飾る文化が根付いている。
特に日本では、従来から携帯電話自体のカラーバリエーションが豊富で、女性を強く意識したモデルが登場するなど、“通信機器”であってもファッションの一部として取り入れる下地ができていた。
携帯電話のファッション性を高めるための取り組みとして、日本ではフィーチャーフォン時代、2つのアイテムが注目されていた。1つは、携帯電話にぶら下げる“ストラップ”。首などにかけて利用するのに設けられたストラップホールを利用し、さまざまなキャラクターや、個性的なデザインのストラップを装着することで、携帯電話を飾ることが広く普及していたのは、記憶に新しいだろう。
そしてもう1つは“デコレーション”(デコ)である。シンプルなデザインの携帯電話に、ラインストーンなどのきらびやかな素材を貼り付けて模様を作り、携帯電話に個性を持たせる文化が、日本では若い女性を中心に広く浸透。“デコ電”などと呼ばれ、多くのメディアで取り上げられるなど高い注目を集めていた。
“ストラップ”から“ケース”へと変化した理由
こうした携帯電話のファッションアイテム化に劇的な変化をもたらしたのが、スマートフォンの登場である。なぜスマホがファッションアイテムに大きな変化をもたらしたかというと、それには2つの要因が考えられる。
1つは形状だ。フィーチャーフォンは本体が細く握りやすい上、折りたたみスタイルで画面が保護される形状のものが多い。それと比べ、スマホは露出されたディスプレイがほぼ全面を占める上、本体の幅が広くなったことから片手では握りづらくなり、傷や破損に対する心配が大きくなった。そうしたことから、本体に傷がつくことを気にする人達が保護用にケースを付けるようになり、そこからスマホを飾るという副次的要素をもたらしたことで、新たなファッションアイテムとして定着した訳だ。
そしてもう1つ、スマホが海外発のデバイスであったことも大きな変化をもたらしていえるだろう。海外ではスマホにストラップを付ける、または飾る文化が浸透していなかったこともあり、Appleの「iPhone」シリーズには現在に至るまでストラップホールが備わっていない。ストラップホールのないiPhoneが、日本の若い女性から高い支持を獲得したことも、ストラップ文化の衰退に少なからず影響しているといえよう。
女性への普及と“着せ替え”がデザインを変える
ファッションアイテムの主流となったスマホカバーだが、当初はあくまでスマートフォンの保護が目的であり、シリコン製のものや透明なハードケースなど、比較的シンプルなものが人気だった。
その後、若い女性層にスマホが浸透していくと、その傾向に変化が出てくる。ケースにデザイン性やかわいらしさなどが求められるようになり、多彩なデザインのケースが市場に受け入れられるようになった。この流れは日本だけでなく海外でも起きており、海外のケースショップに行っても、多彩なデザインのスマホケースを見かけるようになったし、日本にそれらが輸入されて入ってくるケースも見られる。
スマホケースが人気なのは“着せ替え”の要素があることも、大きく影響しているといえよう。かつて日本でも、フィーチャーフォン時代にも着せ替えができることを売りとした携帯電話が存在したし、海外でもNokiaなどの一部モデルで、カバーを交換して着せ替えできるものが人気を博すなど、携帯電話の着せ替えに対するニーズは以前からあった。それだけに、気分や好みに応じてデザインを手軽に変えられるスマホケースは、ファッションアイテムとしても人気を獲得しやすかったといえよう。
ケースの“着せ替え”が、従来の携帯ファッション文化に影響を与えた側面もある。それを象徴しているのが、先に触れた“デコ”だ。デコは本体に直接装飾を施すことから、一度装飾を施してしまうと、別の装飾に変えるには大きな手間がかかる。だが今はスマホケースを装飾することで、“デコの着せ替え”が簡単になった。スマホでは、気分に合わせてデコを変えるというスタイルも広まってきているようだ。
自由の高さが生むケース文化、新規参入も絶えない
スマホケースの中には、デザイン性を高めたものだけでなく、ひたすらユニークさを追求したものや、“防水”“耐衝撃”など端末側にない付加価値を与えるものなど、非常に多岐にわたる商品展開が見られる。
これには、ケースがハードとさほど密接な関係に“ない”ことが影響している。例えばiPhoneの周辺機器を作る場合、周辺機器メーカーはコネクターの利用に関して、さまざまな制約を受けることが多く、自由に周辺機器を作ることはできない。だがケースに関しては、あくまで本体を包むだけの存在であるため、サイズさえ合致すれば、メーカーが制約を設けることは少ない。それが“スマホが入ればケースになる”という自由度の高さを生み、多彩な商品が生まれる土壌を作り上げている。
そうした参入障壁の低さ、さらにはデザイン性と着せ替えのニーズによるケース需要の高まりと市場の拡大から、スマホケースに参入する企業は現在も増えているようだ。筆者はここ1〜2年、スマホケースに関する展示会だけでなく、ファッション系、デザイン系などさまざまな見本市イベントで、ケースを提供する企業に話を聞いているのだが、そうした話からは2つの傾向を知ることができる。
1つは、スマホケースに最近新規参入したばかり、あるいはこれから参入しようとしている企業が、意外と多いということだ。すでに店頭では、大手サプライメーカーや、古くから携帯電話グッズを手掛けるメーカーなどが多くのケースを販売している状況ではあるが、市場が活性化していることを受け、今なおケース市場に参入しようという企業が多いようだ。
そしてもう1つは、新規参入企業の多くが、異業種からの参入であるということ。アパレル関連の企業はもちろんのこと、車の部品メーカーやカメラ用品メーカーなど、さまざまな分野の企業がケース事業に注目していることが分かる。
アナログであることが成長要因に、課題は?
スマホケースは、形状的に傷や破損の不安がつきまとう端末を保護したいという潜在的なニーズに加え、ファッション性の高いケースの登場と“着せ替え”感覚での利用が浸透したことから、多くの人が購入する一般的なアイテムとなった。それゆえ市場も高い成長率を維持しており、先に触れた通り新規参入が絶えないなど非常に活性化しているのが分かる。
そして、ビジネス面での成長に欠かせないもう1つの要因が、ケースがデジタルコンテンツと異なり“アナログ”な存在ということである。スマホシフトでデジタルコンテンツはオープンかつフリーな存在に近づき、“コンテンツはタダが当たり前”というPCに似た意識が浸透した。モバイルならではの価値感は急速に低くなり、ゲーム以外のモバイルコンテンツは、スマートフォンの盛り上がりとは裏腹に、軒並み縮小傾向にある。だがケースはアナログな存在であるが故、価格に対する価値を維持している。スマホの盛り上がりを、自らの成長に結び付けやすかった訳だ。
だが、スマホケースの市場動向を見ていると、いくつかの問題を抱えていることも分かる。1つは、ケースの種類がiPhone向けにかなり偏っているということ。さまざまな店舗のスマホケース売り場を見ると、展示されているアイテムの半数以上がiPhone向けということも珍しくない。
これは、iPhoneが高いシェアを獲得している上に、機種数が少なく、しかも長期にわたって販売されている(形状の変化が少ない)など、ケースメーカーにとって商売がしやすいことが大きく影響している。一方Android端末は種類が多い上にモデルチェンジが頻繁であり、ケースメーカーからして見ればうま味が少ない。そうしたことから、ケースメーカーの“iPhone一極集中”が生まれ、他のスマートフォンのケース選択肢が非常に少ない状況が続いてしまっているのだ。
そしてもう1つは、これはケースメーカーにとっての問題となるのだが、スマホの形に依存するため、端末メーカーの動向に大きく影響されてしまうということだ。例えば今回、Appleは新機種として「iPhone 5s」と「iPhone 5c」の2機種を投入したが、今まで1〜2年おきに1機種用のケースさえ出しておけばよかったケースメーカーにとって、機種数の増加はコスト増加や在庫などのリスク要因へとつながり、うま味が減ることも意味している。
いくつかの問題が見えてきてはいるものの、現在ケース市場が大きく伸びており、活性化が進んでいることに間違いはない。アプリと同じように、ケースやカバーを追加することでスマホに新しい機能を追加する使い方も増えていくだろう。今後も便利でユニークなケースが登場し、市場が活性化していくことに期待したい。
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