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端末と通信を分離するワイモバイル、統合するフリービット――その理由は?石野純也のMobile Eye(11月10日~21日)(1/3 ページ)

この2週間では、ワイモバイルとフリービットが新サービスなどを発表して話題を集めた。ワイモバイルはNexus 6やシェアプランを、フリービットは新プランやフランチャイズ制の導入を発表した。2社の戦略から見えてきたキャリア事情の今とは?

 ワイモバイルは、11月13日に新商品の発表会を行った。事前に予告していたGoogleのリードデバイス「Nexus 6」に加え、8型タブレットの「MediaPad M1 8.0」や、車のシガーソケットに挿し込んで使うWi-Fiルーターの「Car Wi-Fi」も披露。これらの端末で1つのデータ量をシェアする「シェアプラン」も発表した。

 シェアプランはさまざまな機器がインターネットにつながることを想定した設計になっており、「スマホプランL」の契約者については追加での料金がかからないのが最大の特徴。基本使用料が別途かかる他社よりも現実的で安価だ。こうしたプランを生かすため、通信契約にひもづかない、端末単体での販売も行っていく方針。MediaPad M1 8.0は、契約者でなくても店頭での購入が可能になるという。

 MNOであるワイモバイルが通信と端末の分離を推し進める施策を発表した一方で、MVNOの中で垂直統合を強化するキャリアもある。それが、フリービットだ。同社は11月17日に発表会を開催。新プランとして、オプションの通信速度を高速化するチケットの容量を増強することを発表した。さらに、店舗展開も加速させ、新たにフランチャイズ制を導入する。

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 ワイモバイルはより自由度を上げるMNO、フリービットはネットワークを借りた上で垂直統合的なビジネスモデルを組み立てるMVNOであり、今のキャリア事情を象徴しているようにも思える。そこで、11月10日から11月21日を対象にした今回の連載では、これらの2社に焦点を当て、戦略や意図を読み解いていきたい。

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ハイエンドユーザー向けに「Nexus 6」を送り出すワイモバイル

 ワイモバイルは、冬モデルとして「Nexus 6」を発表した。Nexus 6は、Googleの「リードデバイス」と呼ばれるモデルで、アプリ開発者やメーカーの“お手本”ともいえる端末。OSには最新のAndroid 5.0 Lollipopを採用する。Androidのアップデートもいち早く適用されるのが、Nexusシリーズの魅力だ。

12月上旬に発売予定の「Nexus 6」を掲げる、ワイモバイルのエリック・ガン社長(写真=左)。「Nexus 6」は、約6型のディスプレイを搭載した、パワフルなGoogleのリードデバイス(写真=右)

 Nexus 6を発売するキャリアは、日本でワイモバイルのみ。これは、「昨年(2013年)の販売実績のおかげで、独占販売権を取っている」(代用取締役兼CEO エリック・ガン氏)から。2013年に発売したNexus 5は、「世界のキャリアで、販売台数が1位に近い(2位)」(同)といい、こうした販売力がGoogleにも評価された格好だ。ワイモバイルとしても、Nexusシリーズを同社の顔としてのフラッグシップモデルに位置づけたい思惑があるようだ。


国内キャリアでは独占的にNexus 6を取り扱う

 イー・モバイル時代、Nexus 5はMNPで契約した際の本体価格が大幅に引き下げられたが、複数関係者によると、この販売施策はNexusシリーズの販売実績を作るためという意味合いもあったという。もちろん新規契約者数を増やす効果もあるが、それ以上に、Nexusシリーズを取り扱うことに意義を感じていることがうかがえる。

 実際、Nexus 5の販売は好調に推移しており、新規販売されたAndroidの中では「1位を獲得した」(ガン氏)という。販売の主軸が機種変更に移ってきており、なおかつNexus 5は販売期間がほかのキャリアモデルより長かったことも背景にはあるが、契約者数で1000万を超えたばかりのワイモバイルとしては上々の結果といえるだろう。販売方法はもちろん、機種自体に魅力がなければ“販売台数1位”は難しいことだ。

Androidの新規販売数で、ワイモバイルは1位を獲得。その勢いをけん引しているのが、2013年に発売された「Nexus 5」だ

 Nexus 6は、6型のクアッドHDディスプレイを備え、1300万画素、F2.0のカメラには光学手ブレ補正を採用するなど、ハイスペックな機種に仕上がっている。チップセットは2.7GHz駆動のSnapdragon 805、メモリも3Gバイト搭載しており、他キャリアのハイエンド端末と比べてもそん色ないパワーを誇る。

 ただ、従来のNexusシリーズとはやや位置づけが異なるため、Nexus 5のようにヒットが狙えるかどうかは未知数だ。これまでのNexusシリーズは、同時期に店頭に並んでいるほかのモデルより、一部スペックを抑え、そのぶん価格を大きく引き下げていた。Nexus 5であれば、発売当初の本体価格は税別で3万9800円(16Gバイトモデル)。Google側にも、Androidを普及させ、Google Playにユーザーを導きたいという思惑があった。


光学手ブレ補正に対応するなど、Nexusシリーズとしては高い性能を備える

 一方のNexus 6は、ガン氏が「今までは価格重視になっていたが、今回は路線が変わってパフォーマンス重視。値段はほかのメーカーと同じか、少し安いぐらい」と述べているように、Google自身が方針を変えてきたことがうかがえる。グローバルで見るとAndroidはすでに寡占ともいえる状況になっており、新興国向けには低価格な「Android One」もラインアップしている。あえてNexusシリーズを低価格にする意味は、薄れてきているというわけだ。


税別で7万円近い価格設定の「Nexus 6」。従来のNexusシリーズとは違い、ハイエンド、高価格路線だ

 ガン氏は「パフォーマンス重視のお客さまも、どんどん増えてくると思う」と語っているが、価格が6万9600円となるとためらうユーザーも少なくないだろう。ワイモバイルは端末代と通信費を明確に分離する方針で、分割払いが利用できるとはいえ、MNPなど一部の契約を除いて、月々サポートのような通信料に対する割引も行っていない。関係者に話を聞くと、「さすがにこの価格で、一括0円などにするのは厳しい」という。数を取るNexus 5やほかのミッドレンジモデルに対し、Nexus 6は一部のハイエンドユーザー向けというすみ分けになりそうだ。


低価格でパフォーマンスもいい「Nexus 5」を併売する。Android 5.0 LollipopをインストールしたNexus 5はレスポンスもよく、案外こちらがさらに売れることになるかもしれない
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