分解して分かった「Xperia Z3」の“プレミアム端末学”:バラして見ずにはいられない(3/3 ページ)
人気の「Xperia Z3」にはどんなパーツが使われ、どんな製法で生産されているのか。ソニーモバイルがプレミアムモデルと位置付けるZ3の分解を通じて、その開発哲学に迫った。
ハイレゾ音源の専用部品はなし。でも……
最近普及しているハイレゾリューション(ハイレゾ)音源は、アナログの音をデジタル信号に変換する際のサンプリング周波数を約3倍と大幅に増やしたものである。その分、音楽データ量が非常に大きくなるという事を意味する。MP3やAACなどの高圧縮な音楽データは1曲当たり30~50Mバイトだが(もちろん曲により異なる)、ハイレゾ音源のデータ量は4分程の楽曲で150Mバイトまで激増する。
ソニーは2013年にハイレゾ音源対応のウォークマンを発表して以降、スマートフォンでもハイレゾ対応を進めている。もちろんXperia Z3も例外ではない。情報量が増したハイレゾ音源のデータは、アプリケーションプロセッサで処理されるため、新たに専用部品が追加された分けではない。
しかしXperia Z3でハイレゾ音源を楽しむためには、対応するヘッドフォンを別途購入する必要がある。例えばソニーの「MDR-10RC」は同社のオンラインストアで1万3750円(税別)で販売されている。Xperia Z3でハイレゾを楽しむなら、ユーザー側で“コストアップ”を覚悟しなければならない。
これからの薄型化はどうなる?
スマートフォンはディスプレイの大型化がトレンドとなり、今後の差別化は薄さ1つのポイントとなるだろう。薄型化を進める上で障害となるものは3つほどある。
1つはカメラだ。現在のカメラは樹脂レンズを5~6枚重ねて使うため、厚みがある。これは屈折率の高い数枚のガラスレンズに置き換えることで解決されるだろう。
スマホカメラでも欠かせなくなったオートフォーカスは、レンズの周囲にコイルを巻いて電磁石を作り、電流を流して駆動する。そのため、コイルを巻くスペースも必要になる。コイルの代わりにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)による駆動方式も研究されているが、レンズのように大きく重さがあるものを駆動するにはまだパワー不足といわれており、問題解決には時間がかかるかもしれない。
薄型化の実現を阻む2つ目の壁はバッテリーだ。リチウムイオンポリマー電池は容積あたりのエネルギー密度が従来のマンガン電池と比較して3倍程大きく、すでにエネルギーが“危険な程”、高密度で詰まっている。これをさらに飛躍的に大きくする技術はまだ身近なものになっていない。このため、薄型化を実現するにはバッテリー容量を落とす覚悟で薄くせざるを得ず、ただでさえバッテリーの減りが早いスマホにとっては大きなピンチである。
3つ目はディスプレイだ。自発光する有機ELパネルは液晶より格段に薄いものの、現在のところ、モバイル機器用の有機ELパネルは韓Samsung SDIなど限られたメーカーが生産しているのみで、現実的には液晶パネルを使いながら薄型化を実現するしかない状態である。そのため液晶パネルとカバーガラスを薄く削って貼り合わせ、全体の強度を確保している。しかしこれにもさまざまな限界がある。例えばディスプレイを光らせるLEDバックライトはある程度の高さを必要とする。また別の部品と貼り合わせる場合、一方に不具合が発生すると両方廃棄ということになり、金銭的な損失(歩留まり)も考慮しなくてはならない。また薄くすることで強度は確実に失われるため、どこかで限界に到達するだろう。
モバイル機器への採用が期待されるサファイアガラス
Appleに採用を見送られたことで関連企業が倒産し、注目を浴びた人工サファイア。非常に硬いため切削が難しく、その採用には大幅なコスト上昇が避けられない。しかしモバイル用途における人工サファイアの採用例は多くある。例えばカメラのレンズを保護するためレンズ上部に人工サファイアを使用したモデルや、指紋認証部分に採用された例もある。
それだけでなく、従来のシリコンに代わり、プロセッサ基板に人工サファイアを採用するメーカーもある。通信速度が速くなるに連れてさまざまな周波数で高速に信号切替を行う必要が生じるが、サファイア基板は発熱に強く安定している。今後、通信速度の更なる高速化に対応するため、通信のフロントエンド部分で人工サファイア基板のニーズが増える可能性がある。
また液晶のバックライトとして機能するLEDの基材も人工サファイアである。現在のLEDバックライトは長方形のパネルの短辺側に並べられているが、今後、薄いLEDを液晶パネル背面に敷き詰め(液晶テレビでは採用されている)、さらに個々のLEDを超小型にして液晶の画素単位で発光制御することも研究されている。そうなると現在の端末あたり10個程度というLEDの数は大幅に増え、基材である人工サファイアに対するニーズも増える可能性がある。
さらなる薄型化のためにはいつかのハードルもあるが、人工サファイアのように素材や材料面で新しいアプローチも試みられている。現在のスマホの形状が定着して10年近くが経過した。そろそろ大きな変化が起こる時期に来ているのかもしれない。
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