格安SIMで広がりつつある「コンテンツ無料」は、メリットばかりじゃない?:石野純也のMobile Eye(2月29日~3月11日)(2/2 ページ)
LINE、WhatsApp、WeChatの通信料を無料にすることを発表したFREETEL(プラスワン・マーケティング)。このように、特定アプリの通信料を無料にするサービスが最近増えているが、手放しで喜べるとは限らない。プライバシーの侵害につながる恐れもある。
ネットワーク中立性の議論は、日本でも高まるか
このように、特定の相手との通信が無料になるサービスはMVNOで先行しているが、手放しで受け入れていいのかという見方もある。キャリアがこの領域に簡単に踏み込めないのは、「ネットワークの中立性」という概念があるからだ。ネットワークの中立性とは、簡単に言えば、キャリア(ISPも含む)は、通信先を差別的に扱ってはならないということだ。先に挙げたT-Mobileのサービスも、ユーザーには高く評価された一方で、米国ではネットワークの中立性に反するとして、議論が巻き起こっているという。
コンテンツプロバイダーにとっては、無料の対象になるかどうかでユーザーの利用率が変わってしまうため、突き詰めて考えると、通信を提供するキャリアが生殺与奪の権利を握ることになりかねない。T-Mobileの例でいえば、HuluやNetflixの競合でBinge Onの対象になっていないコンテンツプロバイダーは、その実力以外で評価され、ユーザーを失ってしまう恐れもあるだろう。
日本では、まだこうした議論が活発になっていない現状がある。今回取り上げたFREETELのサービスも、対象となっているのがデファクトスタンダードであるApp StoreやLINEのため、反発するコンテンツプロバイダーは事実上、いないだろう。急増しているとはいえ、MVNOの影響力が、まだまだ大きくないこともありそうだ。
ただ、仮にドコモが、自社の動画サービスである「dTV」の通信だけを無料にした場合、どうなるだろう。業界1位で7000万を超える契約数を持つキャリアなだけに、その影響力は絶大だ。動画サービスは必ずしも通信料だけで選択するものではなく、コンテンツの内容次第といった側面もあるが、同じようなタイトルがそろっていたとき、選択されるのがどちらになるかは、明白だ。
そうなれば、dTVと競合するサービスを提供するコンテンツプロバイダーが、黙ってはいないだろう。目先の通信料が安くなるのはユーザーにとってうれしいことかもしれないが、コンテンツに競争が生まれなくなり、結果として質が下がってしまえば、長期的に見たときのデメリットになる。
また、ユーザーの通信内容を、どこまでキャリアが解析していいのかという問題もある。FREETELのサービスは、「DPI(ディープ・パケット・インスペクション)を使って、シグネチャ(パケットの特徴を記述したパターン)で判定して特定の通信を無料にしている」(藤田氏)という。増田氏は「ユーザーの通信の中身までは見ていない」と強調するが、どのアプリを使っているのかが分かってしまうため、それをプライバシーの侵害だと捉えるユーザーもいるだろう。
MVNOの競争軸になっている特定の通信を無料にするサービスだが、回りまわってユーザーの不利益になるケースがあることは、念頭に置いておいた方がいい。また、今後、MVNOの影響力がさらに強まれば、日本でもネットワークの中立性に関する議論が、活発になってくるかもしれない。
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