“無制限ルーター”のトラブルはなぜ起きた? サービスの仕組みと障害の原因に迫る:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
データ通信を容量無制限で利用できる――そんなうたい文句のWi-Fiルーターサービスに、相次いでトラブルが起った。中国のuCloudlinkが提供する「クラウドSIM」が採用されているため、ここに原因があるのではとの見方も広がった。取材を進めていくと、トラブルの原因は別のところにあることが分かった。その仕組みを解説していきたい。
データ通信を容量無制限で利用できる――そんなうたい文句のWi-Fiルーターサービスに、相次いでトラブルが起った。ITmedia Mobileにも詳報が掲載されているが、3月にはグッド・ラックが展開する「どんなときもWiFi」に通信障害が発生。通信速度が大幅に低下した上に、4月3日には、サービスの提供を中止している。
同様に、MVNOのエックスモバイルが提供する「限界突破Wi-Fi」もトラブルに見舞われ、4月1日からは、使い放題を撤廃。1日10GB以上の利用で速度が128Kbpsに落ちる制限をかけたうえで、既存のユーザーに対しては返金や原状復帰費用の負担などの対応を打ち出している。
どちらのWi-Fiルーターにも、中国のuCloudlinkが提供する「クラウドSIM」が採用されているため、ここに原因があるのではとの見方も広がった。反響の広がりを受け、uCloudlinkの日本法人は、4月3日に、こうした見方を否定する声明を発表している。取材を進めていくと、トラブルの原因は別のところにあることが分かった。その仕組みを解説していきたい。
なぜ無制限を打ち出したのか――クラウドSIMの仕組みから解説
トラブルが起こったMVNOのWi-Fiルーターに採用されていたクラウドSIMとは何か。この技術は、uCloudlinkが独自に開発したもの。ネット経由で、端末内に埋め込まれたクラウドSIMに、さまざまな通信事業者の情報を書き込めるのが特徴だ。通信事業者の業界団体GSMAによって標準化されているeSIMに役割は近いが、あくまで独自仕様の1つ。クラウドSIMに書き込まれる情報は、「SIMバンク」と呼ばれるサーバ上に刺さったSIMカードのもので、物理的なSIMカードが必要な点も、eSIMとの違いといえる。
ネット経由でサーバ側にあるSIMカードの情報をダウンロードし、最適な回線を自動で選択できるのがクラウドSIMの仕組み。これを応用して、容量無制限のWi-Fiルーターサービスが提供されている(限界突破WiFiのWebサイトから引用)
uCloudlinkの日本法人で取締役を務める郁星星(Yu Xingxing)氏によると、同社は次のような条件で、法人向けのビジネスを展開しているという。
「私たちはビジネスツールを事業パートナーに提供している。これを使うと、自身でクラウドSIMの運用やプランの構築ができる。ただし、条件が1つある。私たちはプラットフォームと(クラウドSIMが内蔵された)端末を提供するが、SIMカードの調達は各事業者が行う。調達したSIMカードはSIMバンクに挿し、ビジネスツールを通じて、各業者が運営する」
どんなときもWiFiや限界突破Wi-FiもクラウドSIMを採用しているが、これはuCloudlinkが直接運営しているわけではない。前者であればグッド・ラックが、後者であればエックスモバイルが、SIMバンクに挿すためのSIMカードを調達し、料金設定をした上で、ユーザーに提供する。
uCloudlinkの持つSIMバンクを利用するケースもあるというが、「あくまで委託されているだけで、要請がなければ速度に制限をかけることもできなければ、優先順位やプランをいじることもできない」(同)という。あくまで技術とプラットフォームを提供しているだけというのが、uCloudlinkのスタンスだ。
SIMカードだけでなく、SIMバンク自体も、各事業者が独自に運用できる仕組みになっているようだ。uCloudlinkの持つサーバは中国と香港に置かれているが、エックスモバイルの代表取締役社長、木野将徳氏は「顧客の要望もあり、仕入れ先に依頼し、日本に設置していた」と語る。同社が代替策をすぐに打ち出せたのも、こうした体制になっていたためだという。
こうした仕組みの上で、容量無制限のサービスを提供する方法は、主に2つある。1つは、大手キャリアなどから容量無制限のSIMカードを調達するというもの。再販用のSIMカードにこうしたプランがあれば、そのままそれをSIMバンクに挿し、ユーザーに提供すればいい。もう1つは、容量制限があるSIMカードを複数枚用意し、サーバ上で切り替えていくという方法だ。この場合、容量制限自体は残るものの、事業者側が費用を負担することで、疑似的に無制限を実現できる。
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