ソフトバンクが「プライベート5G」を打ち出す狙い、ローカル5Gに対する優位性は?:5Gビジネスの神髄に迫る(2/2 ページ)
自社が免許を保有する周波数帯を活用して自営型の5Gネットワークを構築・運用する「プライベート5G」を打ち出したソフトバンク。これはパブリックの5Gとローカル5Gの中間と位置付ける運用形態となる。海外では自営の4Gネットワークを構築・運用する「プライベートLTE」が既に活用されていることから、同様の取り組みとしてプライベート5Gを推進するに至った。
ローカル5Gに対する優位性は?
ソフトバンクの法人顧客に調査したところ、プライベート5Gには85%の顧客が興味を示しているという。梅村氏によると、さまざまな業種の企業が興味を示しているというが、一方でその中にはプライベート5Gだけでなく、ローカル5Gにも興味がある企業も多い。
ソフトバンクはプライベート5Gを、全国に展開され一般消費者も利用するパブリック5Gとローカル5Gの中間的な存在と位置付けているが、顧客の声からはプライベート5Gがローカル5Gと同列に比較されている様子が見えてくる。加えてローカル5Gの世界でも、現在NSA用として割り当てられている28GHz帯ではなく、SA用として割り当てられる4.5GHz帯が利活用の“本命”と見る向きが多く、サービスも似通ってくることから、やはりプライベートLTEとローカル5Gと直接競合する可能性は非常に高い。
そのような状況下で、ソフトバンクはプライベート5Gが、ローカル5Gに対してどのような優位性があると考えているのだろうか。梅村氏は「もともとパブリックのネットワークを持っているので、そちらとの親和性がうまくできる」ことがメリットの1つになると話している。
自営の無線ネットワークに接続する機器には、工場の機械など固定した場所で使われるものもあれば、構内PHSのように施設内だけでなくその外、あるいは他の施設といったように、場所をまたいで利用されるものもある。そうした後者のようなネットワークを構築する上では、プライベートとパブリック、双方のネットワークを持つソフトバンクの優位性が生きるというわけだ。
広域でのビジネス活用はこれから
ただプライベート5Gは、ソフトバンクにとって扱いが難しいといわれる5Gの周波数帯を有効活用するための手段でもあるようにも見える。同社に割り当てられている3.7GHz帯は衛星通信との干渉でエリアを容易に広げにくい上、28GHz帯も障害物に弱く遠くに飛びにくい特性があり、広いエリアのカバーには向かない。
しかしこれらの帯域は非常に帯域幅が広く、高速大容量通信などで大きなメリットを発揮するのは事実だそうした難しい特性を持つ帯域を有効活用するには、「スポットというのが1つの答え」だったと梅村氏は話している。
一方で、ソフトバンクはダイナミックスペクトラムシェアリング(DSS)によって4Gの周波数帯を活用して早期に5Gのエリア化を進めることを打ち出しており、2021年度末に5G基地局を5万局、人口カバー率90%超を達成する予定だとしている。あくまで人口カバー率ベースではあるが、他社より早いペースで5Gのエリア拡大を進める予定であることから、プライベート5Gだけでなく広域でのSAネットワークの活用も注目される。
梅村氏は「どのような価値創造をできるかアイデアを出している」というが、当面はプライベート5Gに注力することから、広域での取り組みがまだ具体的に進んでいるわけではないという。
ソフトバンクはトヨタ自動車と共同でMONET Technologiesを立ち上げるなど、MaaSの分野にも積極的なことから、5GでもSAによる低遅延の実現によって、自動運転など自動車関連での利活用も期待されるところだ。この点について梅村氏は、自動運転だけでなくIoTやAIを活用することによる安心安全を実現する取り組みが求められると話し、そのためには携帯電話網の社会基盤化、ひいてはキャリア同士の連携も必要になってくるのではないかと答えている。
取材を終えて:テレワーク需要開拓に必要な新たな提案
ソフトバンクはDSSによる広域でのエリア拡大をいち早く進めようとしているだけに、5Gを閉じた形で提供するプライベート5Gを展開するのにはやや意外に感じるところもある。だがプライベート5Gは扱いが難しい周波数帯の有効活用という視点で見ればメリットが大きいのは確かであるし、企業からしてみればモバイルネットワークに豊富な実績を持つソフトバンクが提供することの安心感も大きいことから、ローカル5Gに対する優位性は多い。
もっともプライベート5Gの提供はあくまでSA運用が始まる2022年以降であり、それまでのNSA環境下でどうビジネス開拓を進めるかは課題となる。だがコロナ禍でテレワーク需要が急速に広がったことは、テレワークに関連する多くの商材を持つソフトバンクにとって、大きなビジネスチャンスとなる可能性がありそうだ。
ただ緊急事態宣言下では固定通信のトラフィックが大きく伸びた一方、モバイルのトラフィックはあまり増えていなかったのも事実。5Gのテレワーク需要創出のためには、従来とは異なる提案が求められるかもしれない。
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