政府主導で進んだ料金値下げ/静かな船出も普及の兆しを見せた5G――2020年のモバイル業界を総括:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
コロナ以上にモバイル業界を振り回したのが、政府主導の「官製値下げ」だ。2020年は1年を通じて料金が話題を集めた。3月にMNOが3社そろって5Gのサービスを開始したのも、モバイル業界にとって大きな転換点だった。AndroidのミドルレンジモデルやiPhone 12シリーズの登場を機に、普及の勢いに弾みをつけている。
約半年でミドルレンジモデルが一気に拡充、低価格が進む5Gスマートフォン
5Gに対応したスマートフォンも、3月のサービスイン以降、そのバリエーションを広げている。中でも大きな注目を集めたのが、10月に発表されたAppleのiPhoneだ。5.4型のディスプレイを搭載したコンパクトサイズのiPhone 12 miniから、6.7型の大画面でカメラセンサーまで大判化したiPhone 12 Pro Maxまで、シリーズ4モデル全てが5Gに対応。デザイン面でもフルモデルチェンジを図り、ディスプレイも有機ELで統一した。
日本では、iPhoneのシェアが諸外国と比べて特に高いこともあり、iPhone 12シリーズの登場で5Gの普及が加速。ドコモは年度内に250万契約を目指すが、「プロセスにおける数字としては、計画の上を行っている」(吉澤氏)という。KDDIも、年度内で200万契約を目標にしているが、12月時点で「順調に来ている」(代表取締役執行役員副社長の東海林崇氏)と自信をのぞかせた。一方で、5Gはミドルレンジモデルにも広がり始めている。
先行したのは中国メーカーだ。KDDIは、Xiaomiの「Mi 10 Lite 5G」を同社の日本上陸からわずか約3カ月で導入することを発表。9月に、満を持して市場に投入した。比較的高いパフォーマンスを備えながら、約4万円という価格で、インパクトが大きい端末だった。ソフトバンクからは、OPPOのミドルレンジモデル「Reno3 5G」が7月に発売された。こちらは7万円を下回る価格で、おサイフケータイなどの日本向けローカライズも施されているのが特徴だ。
こうした動きをにらみつつ、ドコモは冬春モデルとして、Samsungの「Galaxy A51 5G」、LGの「LG VELVET」、シャープの「AQUOS sense5G」、富士通コネクテッドテクノロジーズの「arrows NX9」と4製品をラインアップに追加。KDDIも冬春モデル以降、auブランドでは全機種を5G対応にする方針を打ち出している。ソフトバンクは、ミドルレンジモデルとしてリニューアルしたGoogleの「Pixel 5」や、廉価版の「Pixel 4a(5G)」を取り扱っている。
徐々に広がり始めた5Gと5G対応スマートフォンだが、ミドルレンジモデルは4Gまでの端末と大きく特徴が変わらない矛盾もはらんでいる。ハイエンドモデルは、高精細なディスプレイや高画質のカメラで、高速・大容量を生かせるシーンもあるものの、フィーチャーフォンからスマートフォンに移行したときのようなインパクトがないのも事実だ。「Galaxy Z Fold2 5G」のようなフォルダブルスマートフォンや、LG VELVETのような2画面モデルには可能性を感じる一方で、価格はまだまだ高く、普及には時間がかかりそうだ。2021年には“5Gらしさ”をさらに追求したスマートフォンが登場することにも期待したい。
関連記事
ドコモの激安「ahamo」で携帯業界に激震も、“料金プラン”扱いには疑問
ドコモは若者をメインターゲットに据えた「ahamo(アハモ)」を発表。料金は、20GBのデータ容量に5分間の通話定額が付いて月額2980円(税別)と、他社より低い水準の料金を打ち出した。同じ2980円の楽天モバイルよりも優位性は高い。一方、既存ドコモユーザーの移行は限定的とみられる。ドコモ新料金プランの狙いを解説 「5Gは容量無制限」「正価の安さ」が強み
ahamoの発表に続き、NTTドコモは、予告していた「ギガホ」の値下げに踏み切った。5G用の「5Gギガホ」と、4G用のギガホを共に値下げしつつ、データ容量も改定。合わせて、フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えたユーザーを対象したキャンペーンも、正式料金化した。それぞれの新料金の狙いを読み解いていきたい。ソフトバンクは3ブランドでドコモとUQ mobileに対抗 新料金プランは「安く」「分かりやすい」
NTTドコモの料金値下げに即対抗したのはソフトバンクだった。同社はソフトバンクとY!mobile(Y!mobile)の双方を値下げすると同時に、LINEと共同運営の形を取るLINEモバイルを完全子会社化。第3のブランドとして、「SoftBank on LINE」をコンセプトにしたオンライン専用のブランドを立ち上げる。iPhone 12シリーズは5G普及の起爆剤になるか 日本市場へのインパクトを読み解く
iPhone 12シリーズは、「iPhone X」の登場以降、初めてベースのデザインを大きく変えたフルモデルチェンジの端末になる。特に大きなトピックが、5Gへの対応だ。AppleのCEO、ティム・クック氏が「新しい時代のiPhoneの幕開け」と語っていたことが、その期待感の大きさを表している。2020年の5G動向を振り返る コロナ禍で“最悪のスタート”も、2021年の本格始動に期待
日本の5G元年となった2020年だが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を強く受け、5Gをアピールするイベントが中止・延期になるなどして低迷。技術や周波数の影響もありローカル5Gを主体とした法人向けの利活用も大きくは広がっていない。唯一の救いといえるのは、コロナ禍でも携帯各社の5G整備スケジュールにあまり大きな影響が出なかったことだろう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.