LINEの個人情報問題、グローバル開発体制で起きた“見落とし”とは?(2/2 ページ)
LINE利用者の個人情報が一部中国から閲覧できる状態にあるなど、個人情報管理に関する問題を指摘されたことを受けて、LINEが詳細を説明。「LINEの個人情報にアクセスする業務を中国で実施していたこと」「トーク上の画像や動画を国外で保存していたこと」「プライバシーポリシーでその国名を明記していなかったこと」の3点を問題視。LINEの出澤剛社長は「ユーザーの分かりやすさに対する配慮が欠けていた」と謝罪した。
中国で個人情報へアクセスの可能性があった業務とは
続いて出澤氏は、今回の大きな焦点となった中国での業務について説明。LINEでは中国拠点の5つの企業に業務を委託しており、中でも一連の報道で注目されたのがLINEのトークのモニタリング業務に関してだ。
モニタリング業務とは、主にLINEのタイムラインやオープンチャットでのやりとり、そしてLINEのユーザーが「通報」ボタンを押して通報された投稿内容をチェックし、不適切な内容でないかをチェックするもの。そのツールを開発している子会社のLINE Digital Technology(LINE China)が、開発時の確認のため通報されたトークやタイムラインなどのデータを見る可能性があった他、モニタリング業務を委託しているNAVER Chinaと日系企業のA社が、実際に通報されたテキストや画像などを確認して削除などをしていたという。
さらに日系のB社には、LINE Creditのシステム開発を委託しており、ローンのコアシステム開発を手掛けていたこともあって、住所や氏名などを扱う業務をしていた。また国外C社は「LINE CONOMI」に登録された情報のモニタリングや、LINE レシートの画像データ検収などしており、それに付随する情報を扱っていた。そこで一連の問題の指摘を受ける形で、LINEは説明会と同日に、中国からの個人情報へのアクセスを遮断。コミュニケーションに関する機能の開発・保守運用を終了したとのことだ。
とりわけ、中国でのデータアクセスを問題視する向きが強いのは、中国が2017年に国家情報法を施行し、中国企業が中国政府から情報提供などの要請があった際に従わなければならない状況となったことが大きい。この点について出澤氏は「中国で長く開発を続けてきたので、国家情報法の潮目の変化を見落としていたというのが偽らざるところ。ユーザーへの配慮が足りなかった」と釈明している。
ただ先にも触れた通り、LINEの開発体制は7つの国や地域にまたがっており、中国や韓国以外の拠点で問題が出てくる可能性も完全に否定はできない。出澤氏は他の国での開発・運用状況に関しても個人情報委員会で報告し、タイミングに応じて適宜開示していくとしている
なぜデータ管理の国名を明記してこなかったのか
さらに出澤氏は、2021年3月29日週にプライバシーポリシーを変更すると説明。これまで第三国にデータが移転することは明記されていたものの、国名の記載がなく透明性に欠けていたとし、変更後は具体的な国名と目的を明記するとしている。さらに出澤氏は、2020年3月に国会で可決され、2年以内に施行するとされている改正個人情報保護法を見据え、プライバシーポリシーを随時改定していきたいとも話している。
なぜ「第三国」という記述をそのままの状態にしていたのか。実はLINE社内でも改正個人情報保護法を見据えた検討を進めており、データの国内移転などは2019年から徐々に進めていた。その際、プライバシーポリシーの表記についても問題として議論の俎上(そじょう)に上がっていたというが、同社では2022年の変更に向けた準備を進めていたことから「この記載なら現行法では大丈夫なんじゃないか」(出澤氏)と考え、変更を急ぐに至らなかったとのことだ。
もちろん一連の問題で、現時点で明確な違法性があったり、直接的な問題が起きたりしたわけではない。だが出澤氏は「ユーザーの分かりやすさに対する配慮が欠けていた。法的にどうかではなく、ユーザー感覚としておかしい、気持ち悪いというところ、その対処ができていなかったことが問題」と説明。「あらゆる面で(対応を)検討していく」と、当面は信頼回復に向けた取り組みに注力するとしている。
関連記事
LINE、中国からのアクセスを遮断 トークデータは国内へ完全移転
Zホールディングスが「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」を設置。LINEアプリの個人情報の一部が海外から閲覧できる状態にあったことを受けたもの。委員会の座長を務める東京大学大学院法学政治学研究科 教授の穴戸常寿氏は、「今回の件はプライバシーの不備を超え、社会的信頼を損なうものと私は考えている」と話す。LINEの個人情報が海外から閲覧可能? LINE「説明が十分ではなかった」と謝罪
LINEユーザーの個人情報が、海外の委託先からアクセス可能だった――とする報道に対し、LINEがコメントした。外部からの不正アクセスや情報漏えいが発生した事実はない。一方、中国の委託先では、一部公開コンテンツと通報されたトークテキストのモニタリング業務を行っているという。ヤフーとLINEの統合で何が変わるのか? 新生Zホールディングスが目指すもの
ヤフーを傘下に収めるZホールディングスとLINEが統合して新生Zホールディングスが3月1日に誕生した。新生Zホールディングスは、Yahoo! JAPANやLINEといった巨大サービスを抱え、国内総利用者数は3億超、国内サービス提供数は200超となる。中でもコマースやFintechを集中領域に掲げている。LINEが「Aホールディングス」に商号変更 ヤフーとLINEの経営統合で
ソフトバンクとNAVER Corporationは、2月24日に開催されたLINEの臨時株主総会で、LINEの商号を「Aホールディングス(AHD)」に変更すると決定した。ヤフー×LINE、経営統合でこれから決済業界に起こること
ヤフーとLINEの経営統合で気になるのが、2社が提供しているモバイル決済の動きだ。PayPayとLINE Payが今回の事業統合で1つにまとまることはないだろう――というのが筆者の考えだ。こう考える理由の1つに、両者の統合後の姿が原時点で全く想像できない点が挙げられる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.