レッドオーシャン時代のMVNO市場を振り返る 「接続制度」と「公正競争」の行方は?:ITmedia Mobile 20周年特別企画(3/3 ページ)
MVNOが登場した当初の市場はブルーオーシャンで、数々の事業者が参入しました。しかし、2015年ごろから市場の様相は変わり始めます。既存MVNOが対抗のために価格を下げ、市場はあっという間にレッドオーシャン化しました。
ahamoショックで業界に激震が走る
総務省の有識者会議で競争環境整備についての議論が続く中、2020年秋、冬にさらなる大波がMVNOを襲うこととなります。ドコモによる新料金プラン「ahamo」の発表です。
それまで官房長官として携帯電話料金の低廉化に意欲的な発言を続けていた菅氏が総理大臣に就任、総務大臣に任命された武田氏とともに携帯電話業界に対して強いメッセージを発しました。これをきっかけにして、2020年10月にKDDIとソフトバンクは、UQ mobileとY! mobileを活用し、より安価なプランを発表しますが、11月に入り武田大臣はこれに不快感を表明します。
そして、業界が推移を見守る中、ドコモが「メインブランド」として従来に比べて大きく価格を下げたプラン「ahamo」を発表しました。
ahamoがMVNOに与えた衝撃は2つあります。1つは、これまでフルサービス・フル価格戦略をとっていた大手キャリアのメインブランドが、サービス内容を制限した低価格帯に直接乗り込んできたことです。もう1つは、ahamoが設定したエンドユーザー価格が。MVNOに提供される接続料の水準では実現不可能なレベルだと考えられたことです。
先に紹介した通り、キャリアが設定する接続料については2019年までの遡及生産方式に代わり、2020年からは将来原価方式が導入されています。2020年度に適用される接続料は、2020年3月末に「2020年度中に実現されるであろうコスト低減」を織り込んだ額がキャリアから提示されていました。
しかし、2020年12月に発表されたahamoのエンドユーザー価格は、MVNOの視点で見れば2020年3月に提示された「予測された接続料」では説明が付かず、キャリア内部で予測を超えるコスト低減が図られたものと推測されました。
接続制度の趣旨に基づけば、こうしたコスト低減はMVNOに提示される接続料にも反映されるべきものです。ですが、現行の接続制度においてはMVNOに提示される接続料の改定は年1回であり、コスト低減がMVNOに反映されないままキャリアのみに先行して反映された状態になっていると考えられました。このような状態は、それまで進められてきた将来原価方式の導入など、公正な競争環境を実現するための動きと乖離(かいり)するものではないかという疑念が噴出します。
このような異常事態を受け、MVNO委員会は2021年1月に公正な競争環境を求める要望書を総務省に提出することになります。それを受け、武田総務大臣も接続料のさらなる低廉化を求めました。
もちろん、MVNO自身も状況の変化を座して待つわけではなく、今後実現されるであろう接続料の低下を予想し、リスクを取る形で新プランを投入しています。記事執筆時点では、主要MVNOの新料金プランがおおむね出そろい、キャリアの新プラン・サブブランド、MVNOが新たなポジショニングで競争に突入するという局面に至りました。
これらの一連の流れは、スマートフォンの利用料金が事業者間の競争による市場経済の枠を超え、政府の経済施策・政治問題化しているという現状を如実に表しているといえます。そうした状況の中で、MVNOはさらなる発展に向けて進んでいかなければなりません。
この先のMVNOの発展にどのような道筋が考えられるのかについては、稿を改めて1つの考察をご紹介したいと思います。
著者プロフィール
堂前清隆
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 副部長 兼 MVNO事業部 事業統括部シニアエンジニア
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。
- Twitterアカウント @IIJ_doumae
- IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」 http://techlog.iij.ad.jp/
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