「povo」は100万契約突破 ドコモの通信障害は「人ごとではない」――KDDI高橋社長一問一答(2021年10月編)(2/2 ページ)
KDDIが10月29日、2021年度第2四半期決算を発表した。この記事では、報道関係者向けの決算説明会で行われた高橋誠社長との一問一答の中で、特に注目すべきやりとりをまとめる。
ドコモの通信障害は「他人事にしておけない」
―― 先日、NTTドコモで大規模な通信障害が発生しました。コア設備の切り替え工事に起因しているということで、御社でも今後、5Gの普及に伴い同種の工事が増えると思うのですが、御社として得られた教訓、あるいは対応策があれば教えてください。
高橋社長 本件は他人事にはできない話題です。現在の通信設備は昔と比べると複雑化していて、電子決済回りや交通産業でも使われるようになっています。今回のドコモの場合、例えばタクシーで多く使われていることもあり、大きな影響が出てしまっています(筆者注:タクシーの決済端末用の通信回線ではドコモのシェアが大きい)。私たちも社会インフラの一部として使われる回線を多く抱えているので、改めて通信事業をしっかりとやっていかないといけないと思った所です。
今年(2021年)中にお披露目できるといいなと思っているのですが、私たちは7月にLINK FOREST(東京都多摩市)の隣接地に監視機能を集約した拠点を設置するなど、(通信サービスの)運用の集約化と強靱(きょうじん)化を同時に進めています。できるだけ(通信に関する)事故を起こさないように対応していきたいと思っています。
今回の(ドコモの)障害はIoT機器が起因となっています。IoT機器はトラフィック(通信量)自体は大したことがない一方で、トランザクション(通信回数)は非常に多いことが特徴です。そのため、一度通信障害が発生してしまうと、(原理的に)復旧までどうしても時間が掛かってしまいます(筆者注:ドコモの場合、障害の原因となった事象自体は約3時間で解消できたものの、障害は最長で29時間継続した)。
どうやって安全にネットワークを運用するかという観点では、やはり(IoT機器と一般的な携帯電話で)運用をしっかりと分けていくことが重要になっていくと思います。今回のドコモの障害は“我がこと”として捉えて、直せる点はすぐに直していきます。
NTTドコモで10月14日17時頃から発生した通信障害は、発生原因自体は約3時間で解消した。しかし、5G/LTE(Xi)回線では最長で翌日(15日)の5時5分まで、FOMA回線では最長で同日の22時まで影響が残った
NTTグループの再編はKDDIにとっての「チャンス」?
―― ドコモが10月21日から「エコノミーMVNO」を始めました。これについて、率直にどう思いますか。私(質問者)個人としては競争力に乏しく映るのですが……。
高橋社長 いい質問ですね……。私たちはpovoを投入しましたし、(グループ企業まで広げれば)ビッグローブ(BIGLOBEモバイル)やJCOM(J:COMモバイル)といった異なるターゲット層をカバーするMVNOもあります。あのプラン(エコノミーMVNO)が出てきたからといって、すぐに特別な対応をする必要はないと考えています。
(KDDIとしては)新しい取り組みでもあるpovoをうまく使えば、十分に対抗できるのではないでしょうか。
―― NTTドコモがNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアを子会社化することを発表しました(参考記事)。本件やそれに先立つNTT(日本電信電話)によるドコモの完全子会社化含め、御社はNTTグループの再編について否定的な立場を取られていたかと思いますが(参考記事その1/その2/その3)、どう受け止めていらっしゃいますか。(グループの持株会社である)NTTや総務省に対して、どのようなことを求めていくのでしょうか。
NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアについて
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)
1997年、NTTを「持株会社」「地域(同一都道府県内)通信会社」「長距離(都道府県を越える)通信会社」に分割/再編する際に、長距離通信を担当する事業会社として設立された。同社はNTTからインターネットプロバイダー事業(OCN)も受け継ぎ、「国際通信」にも新規参入している。
現在、NTT ComはNTTの完全子会社となっているだが、NTTは2022年1月1日付でNTT Comの全株式をNTTドコモに譲渡する。これにより、NTTComはNTTドコモの完全子会社となる。
NTTコムウェア
1997年にNTTを再編する際に、同社からシステム開発部門を分社する形で設立された。設立当初の社名は「NTTコミュニケーションウェア」だったが、2000年に現在の社名に改めた。
現在、NTTコムウェアはNTTの完全子会社となっているが、NTTは2022年1月1日付でNTTコムウェアの株式のうち66.7%をNTTドコモに譲渡する。これにより、NTTコムウェアはNTTドコモの連結子会社となる。
高橋社長 今年はいろいろなことがありました。この秋の段階で(ドコモとNTT傘下にある2社の)再編について一定の見解が示され、その結果、ドコモの傘下にコミュニケーションズとコムウェアが入ることになります。
NTTによるグループの一体化については懸念が残るので、公正競争を確保する観点で“逆戻り”しないように意見の主張は続けていきたいと思います。ただし、(総務省における議論の結果)NTT東日本とNTT西日本(地域通信会社)に関する話(※1)がハッキリとしたことは良かったと思います。
(※1)交換局など保有設備について、完全兄弟会社となったNTTドコモを優遇するような措置を行うのではないかという懸念に対する対処など
今回の統合によって誕生する新しいNTTドコモグループは、新しい中期戦略を発表しています。これによって、相手(ドコモグループ)が目指す所がハッキリとしました。
私たちのにビジネス(法人)セグメントは、2021年度の売上高1兆円が見えてきた所です。現時点において、新ドコモグループの法人事業の売り上げは1.5兆~1.6兆円規模で、2025年度までに2兆円以上まで成長させる計画となっています。コムウェアは(主な顧客が)NTTグループ内になるでしょうから、それを除いたとしても1.7億円前後の売り上げを目指すつもりなのだろうと思います。
私としては、これで社内に発破を掛けやすくなりました。良いターゲットができたと思っています。
コンシューマー事業は値下げをしつつも5Gを生かして“体力”を付けようと考えていますが、人口減少という避けられない事実と直面しています。そうなると、法人事業やDX化に注力しようというのは、各社が当たり前に考える流れだと思います。敵(ドコモグループ)が大きくなるのであれば、その姿をより明確に捉えられるので、負けずに頑張っていきたいと思います。
NTTやドコモの資料を見ていると、(事業戦略に)私たちと似た部分が多くなってきたとも感じてきます。私たちの中期計画は今年度が最終年度で、現在は来年度からの中期計画を検討している所ですが、両社にはない特色を出していけるように取り組みます。
NTTドコモは2022年1月1日付でNTT ComとNTTコムウェアを子会社化する。その後、2022年度第2四半期(2022年7~9月)頃をめどに各社が持つ子会社や関連会社を巻き込みつつ事業再編を実施する予定となっている
3Gサービスの終息や5Gサービスの拡大について
―― 御社は間もなく3Gを停波します。一方で、総務省が3G携帯電話で使っている電波の周波数帯の再割当について議論を進めています(参考記事)。「停波した帯域を別の事業者に渡せるようにしよう」という話も出てきていますが、どう思いますか。
高橋社長 弊社における3Gの停波は、現時点において順調に進んでいます。一方で、総務省では幾つかの電波政策が並行して進んでいると認識しています。ご指摘の周波数帯の再割当は、数ある政策の中でも重要なテーマの1つです。私たちも、パブリックコメントという形で意見を申し上げています。
この業界で長く取材をされている記者さんはご存じだと思いますが、2004年に800MHz帯の再編方針が決まり、弊社は2012年まで(NTTドコモと共に)対応を進めてきました。この頃はお客さまが(現在よりも)少なかったですが、対応はかなり大変でした。周波数帯の再編は、整理を完了すればすぐに使い始められるものではなく、お客さまにも多大な負担(端末の買い換えなど)を強いることになります。総務省においては、このようなことを踏まえた上で丁寧に議論してほしいと思っています。
今後5年間で(3G用帯域の使い方について)議論を進めて、各キャリアが多大なコストを負担して再編を進めるというやり方が、5Gの普及を遅くすることにつながらないか、国を挙げて進めようとしている「Beyond 5G」につなげられるのか、そういったことをよくよく考えて議論すべきだと考えます。そう簡単に進められる議論じゃないとも思います。
総務省では、いわゆる「Beyond 5G/6G」に向けた電波政策の議論を進める中で、あるキャリアに割り当てられている周波数帯をサービス終息を機に別キャリアに割り当てられるようにする制度の導入を検討している
―― 半導体不足について、前回の決算説明会において大きな影響を受けていないとしていたかと思いますが、今も同様なのでしょうか。
高橋社長 前回から状況は大きく変わってはいないと考えています。
基地局の設置については、今年度中に整備するものについては先行して(アンテナなどの)調達を掛けていたので、大きな影響は出ていません。ただし、伝送(基地局と交換局の通信)回りに使う設備については、半導体不足と新型コロナウイルスの影響で、細かい部品の調達でわずかに影響が出ています。そのため、工事が遅れるケースもありますが、計画全体がクリティカル(致命的)になるほどではありません。
端末でいうと、iPhone 13シリーズにおいて減産の報道が一部にありますが、今の所は需要に応じた在庫は確保できています。既にご予約いただいている分については心配は不要です。
―― 5Gのエリア化について、2022年3月末の時点で人口カバー率を90%とする計画を立てていますが、現状のカバー率はどんな感じでしょうか。
高橋社長 おっしゃる通り、(2022年3月までに)90%という計画ですが、先ほども触れた通り、細かい部品の調達の遅れによって「黄色信号」になりかかっている状況です。
ただし、私たちは、単に(基地局数や人口カバー率といった)数字を上げるよりも、生活動線にもとづくエリア設計を心掛けています。そのことでお客さまの満足度を向上させつつ、(工事の)遅れを解消できるように取り組んでいきたいと思います。
現時点でのエリアカバー率は、開示できる数字がないのでご容赦ください。
―― 説明資料を見ると、5Gサービスでは「契約者数」ではなく「端末販売台数」を指標として出しています。なぜ、回線契約数をストレートに開示しないのでしょうか。販売台数は回線契約数とおおむね同数と捉えていいものなのでしょうか。
高橋社長 今回示した5G端末の「累計販売台数」(9月末時点で約470万台)は、純粋に(KDDIと沖縄セルラー電話で)売れた5G端末の台数を表しています。
5Gの「回線数」について、他社も含めて見るといろいろなことを言っています。ある意味で、ややこしくなっているように思います。例えば5G契約がLTE(4G)契約を兼ねているプランがある場合に、これをLTE端末で使ったとしても「5G契約」になってしまうわけです(筆者注:KDDIや沖縄セルラー電話では、auブランドは同一名のプランでも「5G」と「4G LTE」の契約を厳密に区分しているが、UQ mobileの現行プランやpovoは5Gと4G LTEの兼用プランとなっている)。
(5Gの普及状況を)分かりやすく示すには、端末の販売台数を出した方がいいと思ってそうした次第です。2022年度末には(累計)800万台を目指します。
LTEと5Gを兼用するプランが増加する中で、5Gの普及状況をより正確に示すために、「5Gプランの契約数」ではなく「5G端末の累計販売台数」を開示することにしたようだ。なお、5G(対応)プランの累計契約数はVoLTE対応の4G LTEプランの累計契約数と合算する形で開示されている
―― スタンドアロン(SA)構成の5Gネットワークを使った通信サービスについて、ソフトバンクは提供を開始して、ドコモも12月から提供する予定を示しています。一方、御社では9月から商用環境での通信実験を開始したものの、サービスの開始時期を明示していません。SA構成の5G通信サービスは、いつから提供するつもりなのでしょうか。
高橋社長 現時点では、商用環境でのトライアルサービスを12月から提供する予定で、2021年度中に法人を対象に本格的なサービスを提供する計画です。
SAというと、(LTEネットワークに頼らずに)5G単独で通信することになります。他社も含めて、現時点では「全国どこでも5Gでつながる」という状況ではありません。そう考えると「(5Gエリア内にある)法人が使い始める」というスタートが自然なのかなと思います。
個人を含めて、多くのお客さまが一気にSAネットワークを使っていただける状況は想像できないので、まずはスロースタートで行こうと思います。
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