実現が見えてきた“スマホと衛星の直接通信” 国内最速はKDDIか楽天モバイルか?:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
KDDIがSpaceXのStarlinkを活用し、2024年内に衛星とスマートフォンの「直接通信」を開始することを宣言した。当初はSMSなどのメッセージングサービスに対応し、その後、時期は未定だが音声通話やデータ通信も利用可能になる。国内外のキャリア各社は衛星通信の採用に積極的だが、真価を発揮するには1年以上は時間がかかる。
本領発揮は音声通話とデータ通信、方式が入り乱れる衛星との直接通信
ただ、メッセージ機能だけなら、あえてStarlinkを利用するメリットも乏しくなる。既に一部の端末でキャリアを問わず、近いサービスが実現しているからだ。代表的なのは、AppleがiPhone 14シリーズに導入した「衛星経由の緊急SOS」だろう。同機能は現在、米国や英国に加え、ドイツ、フランス、カナダ、イタリアなど計15カ国で導入されている。日本で販売されているiPhone 14も、サービス提供国に持ち込むと、衛星経由の緊急SOSが利用可能になる。
同サービスは、米Globalstarの低軌道衛星コンステレーションを活用。Lバンド、SバンドでiPhoneと直接通信を行い、緊急時に助けを求めるメッセージや位置情報を送信できる。実際、筆者も米国で衛星経由の緊急SOSを試したことがあるが、こちらもスループットは非常に低く、見通しが少しでも悪いとすぐに通信できなくなってしまう。また、メッセージは衛星経由の緊急SOSを受けるためのセンターに送信され、ユーザーがコミュニケーションを取る相手を自由に選択することはできない。
KDDIの周波数帯をそのまま使うStarlinkの直接通信なら、特定のiPhoneを持っている必要はなく、通常と同じようにメッセージを送受信できるようになるとみられる。一方で、衛星通信のユースケースを踏まえると、後者は決定的な差別化にはなりづらいだろう。メッセージだけなら、緊急時に送信できれば十分だからだ。やはり地上と同じように音声通話やデータ通信ができるようになってこそ、Starlinkによる直接通信のメリットが生きてくる。その意味で、このサービスが真価を発揮するには向こう1年以上の時間がかかる。
ちなみに、モバイル通信の標準化団体である3GPPは、2022年に凍結された「リリース17」で衛星通信を含むNTN(非地上系ネットワーク)の仕様を定めている。この業界標準に基づき、MediaTekやサムスン電子といったチップセットベンダーは、衛星通信に対応するモデムチップを開発している。また、米Qualcommも、衛星通信に対応した双方向メッセージングソリューションの「Snapdragon Satellite」を発表。2023年から、Xiaomiやモトローラを含む、複数のスマホメーカーがこれを採用する規計画を打ち出している。
ただし、3GPPのリリース17では、NTN用の周波数が定められており、端末側が対応するモデムを実装している必要もある。各国のキャリアに割り当てられた既存の周波数帯を利用するStarlinkの直接通信とは、少々仕組みが異なるといえそうだ。松田氏によると、「既存の周波数帯を使い、今のスマホもそのまま使えるというのがメッセージ。ハードウェアもソフトウェアも変えずに使えるようにしたい」といい、幅広い端末で利用できることをアピールしていた。
iPhoneの衛星経由の緊急SOSも、iPhone 14シリーズ以降に限定されるため、どうしても一気に広げることができない。特定キャリアとの契約が不要で、対応する国や地域であれば誰でも使えるのはメーカーが独自に導入したサービスの利点だが、裏を返せば端末に縛られてしまうことにもなる。その点、既存の周波数や既存の端末がそのまま対応できるKDDIとSpaceXの方式は、普及の見通しが立てやすいサービスといえる。
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