実現が見えてきた“スマホと衛星の直接通信” 国内最速はKDDIか楽天モバイルか?:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
KDDIがSpaceXのStarlinkを活用し、2024年内に衛星とスマートフォンの「直接通信」を開始することを宣言した。当初はSMSなどのメッセージングサービスに対応し、その後、時期は未定だが音声通話やデータ通信も利用可能になる。国内外のキャリア各社は衛星通信の採用に積極的だが、真価を発揮するには1年以上は時間がかかる。
KDDIと楽天モバイル、サービスインが早いのはどちら?
同様の衛星との直接通信を実現しようとしているのが、楽天モバイルと同社が出資するASTだ。KDDI、SpaceXと同様、楽天モバイルとASTも、大型の低軌道衛星を使って、日本全土をエリア化していく方針を打ち出している。2023年4月には、ASTが2022年に打ち上げた試験衛星の「BlueWalker3」を使い、米国での実験に成功。既存の端末に一切手を加えることなく、米AT&Tの周波数を使った音声通話を行っている。また、この実験では4G、5Gの波形に対応することを確認したという。
8月4から6日かけて開催された「Rakuten Optimism」というイベントでは、8月以降、北海道でも実証実験を行うことが明かされている。2022年にASTが試験衛星を打ち上げ、軌道上でのアンテナ展開に成功してから、着々と導入に向けたテストが進んでいる。新規参入キャリアの楽天モバイルはエリアが他社に見劣りするため、スペースモバイルでそれをカバーするとみられがちだが、へき地や災害時の対策という点では、KDDIと狙いは近い。
ただ、ASTの打ち上げ計画は、当初から徐々に遅れが出始めている。楽天モバイルも、当初は2022年第4四半期ごろのサービス開始を目指すと公言していたが、2021年には2023年以降の導入に計画を変更。1月に開催された楽天市場の出店者向けイベント「楽天新春カンファレンス」では、楽天グループの代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が、「24年末から25年にかけて実現するプロジェクトを走らせている」と語っていた。
SpaceXも、「Starlink V2 Miniでも今回のサービスは提供可能」(オチネロ氏)というが、主力となるStarlink V2の打ち上げ成功には至っていない。その意味では、既に市販されているスマホでの音声通話に成功している楽天モバイルとASTが、一歩リードしているといえそうだ。KDDIとSpaceXの実験はこれから。地上局との干渉をどう防いでいくのかも、「これからの実験や衛星のケイパビリティ(能力)による」(松田氏)といい、現時点では計画の表明にとどまっている。
一方で、打ち上げに関してはASTもSpaceX頼みだ。ASTのBlueWalker 4を打ち上げる際にも、同社の「Falcon 9」ロケットを活用していた。これは、SpaceXの「主要なサービスが打ち上げビジネス」(オチネロ氏)だからだ。また、SpaceXには既にStarlinkの衛星コンステレーションを5000機以上打ち上げ、実サービスを提供しながらノウハウを積み重ねてきた。実験は進んでいる楽天モバイルとASTだが、KDDIとStarlinkの方が早くエリア展開できる可能性もある。ローミングの提供では協調関係にあるKDDIと楽天モバイルだが、“衛星競争”では激しく火花を散らしているといえそうだ。
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