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au Starlink Directで“衛星データ通信”を実現できたワケ 対応スマホやアプリは少ないが、新たなビジネスモデルも?石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)

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対応端末や対応アプリのバリエーション拡大が課題か、新たに広がるビジネスチャンスも

 もっとも、現時点ではアプリの数が圧倒的に不足している。コミュニケーションという観点では、日本でデファクトスタンダードになっているLINEが対応していない。KDDIは「ニーズが高いと認識しているため、お声がけしたい」(同)としているものの、ソフトバンク傘下のLINEが応じるかどうかは未知数だ。親会社のソフトバンクも衛星とスマホのダイレクト通信を2026年に開始することを表明しているだけに、KDDIのために動くかどうかは未知数だ。

 端末数も現時点では限定的になる。Pixel 10シリーズやGalaxy Zシリーズの最新モデルは間に合ったが、その他のモデルはアップデートを待つ必要がある。また、これらはあくまでKDDIが販売した端末というただし書きも付く。Pixelに関しては、キャリアごとの仕様差がないため、Googleから購入したオープンマーケット版はもちろん、他キャリアが販売した端末でも利用できるが、Galaxy2機種はau版のみにとどまる。


対応端末は現時点で5機種、10月発売の「Pixel 10 Pro Fold」を入れても6機種にとどまる。非au端末にどう拡大していくかも、他社ユーザーを取り込む上での課題になりそうだ

 この制限はau Starlink Direct全体に及ぶため、メッセージサービスのみに対応しているその他の端末もKDDIの型番が付与されたものに限定される。iPhoneやPixelはあくまで例外的な扱いだ。au専用のサービスであればいいが、他ブランドや他社ユーザーも対象にしたau Starlink Direct専用プラン(9月1日からはau Starlink Direct専用プラン+)も導入している以上、より広い端末への対応は不可欠になる。利用できる端末をどう増やしていくかは、今後の課題になりそうだ。

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 一方で、アプリに関しては開発者側がau Starlink Direct対応に商機を見いだせば、一気に広がる可能性もある。衛星とスマホのダイレクト通信は、KDDIだけでなく、2026年にはドコモやソフトバンク、楽天モバイルもサービスを開始するため、市場規模が広がることは確実。楽天モバイルのように、地上局と変わらないモバイルブロードバンドを売りにするキャリアもあるため、何社で専用モードが必要になるかは未知数だが、現時点での状況を踏まえると一定の制限があるサービスの方が多くなるはずだ。


衛星とスマホのダイレクト通信は、2026年に他社も導入する。写真の楽天モバイルは、大型のアンテナを持つAST SpaceMobileでブロードバンドの導入を狙うが、それ以外はau Starlink Directと同様の制約が設けられる可能性もある。そうなれば、専用アプリ開発の市場規模は広がりそうだ

 現時点では、どちらかといえば登山や海での安全を重視したものや、位置情報を生かしたものが多くなっている。SNSなどのコミュニケーション系サービスは、まだまだ足りない。フィーチャーフォン時代のように、中間サーバでデータ量を削減するブラウザアプリや、非同期で音声を送受信できるプッシュ・トゥ・トークのようなアプリなどにもニーズが出てくるかもしれない。これらのアプリ開発には、狭い帯域を工夫しながら使っていたフィーチャーフォン時代の発想やノウハウが生かせそうな印象を受けた。


かつてKDDIが提供していたHello Messenger。音声通話ができない代わりに、こうしたサービスがあってもよさそうだ

 続々とアプリが増えるには、au Starlink Directを利用するユーザーが増えることが必須条件になる。その点では、8月26日に同サービスへの接続数(ユニークユーザー数)が190万を突破したというのは、明るいニュースといえる。対応料金プランや対応端末の拡大に合わせて、この数字がどこまで増えていくかには要注目といえそうだ。

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