写真で見る「長崎・浜んまち商店街」――加盟店の試行錯誤と、そこにある課題:神尾寿の時事日想・特別編:
Edy、iD、銀聯カードを大規模導入した長崎の浜んまち商店街。しかしコンビニやスーパーなどのチェーンと違い、個別の店舗で新しい決済方式を導入するには課題も多い。実際に長崎に足を運び、加盟店の悩みを聞いた。
長崎は平地が少ない。目の前に海、後背は山に囲まれた地形である。そのため地方都市にありがちな、“広々とした”印象はない。人と建物が密集し、道にはクルマが多く、そこを縫うように路面電車が走っている。ちょうど長崎ランタンフェスティバル前で、中国風のランタンが街のいたるところに掲げられていたこともあり、雰囲気は“活気あるアジアの街”である。
長崎・浜んまち商店街(長崎市浜町周辺の商店街)は、この長崎市の中でも中心的な位置に存在する商業エリアである。駅や企業のオフィス、長崎県庁などがある海側のビジネスエリアから見ると奥に控える形で、長崎中華街と隣接している。地図で確認すると、少しだけ開いた扇を横に倒したように広がっている。
この長崎・浜んまち商店街で2月1日、FeliCa決済の「iD」「Edy」、および中国で広く普及する決済方式「銀聯(ぎんれん)」の取り扱いを開始した(参照記事)。詳しくはニュース記事に譲るが、導入された決済端末の数は約300台。iD+Edy+銀聯という組み合わせは非常にめずらしく、導入規模の大きさから見ても全国初の試みだ。
今日の時事日想は特別編として、長崎・浜んまち商店街の新決済方式導入の様子をレポートしていく。
決済端末の運用に悩む百貨店
タクシーで浜んまち商店街を目指すと、たいてい「ベルナード観光通り」の入り口で降ろされる。この通りは商店街を縦断し、他の通りより道幅も広い。
ベルナード観光通りの入り口には、道を挟んで「博多大丸長崎店」と「浜屋百貨店」の2つの百貨店がある。高級ブランドのテナントも多い、浜んまち商店街の顔だ。どちらも今回の新決済端末を導入している。
筆者は浜屋百貨店を訪れたのだが、1階には有名ブランドの化粧品コーナーがずらりと並んでいる。しかし、目を凝らせど、FeliCaのリーダー/ライターらしきものはない。聞くと、新決済端末は店内の奥まったところにあるバックヤードに設置されているという。
「売り場にもよりますが、百貨店では、カウンターは商談スペース。お買い上げいただく際は、カウンターでお客様からお金やクレジットカードを預かり、店の奥で店員が決済をするという仕組みになっています。レジがバックヤードにしかないので、決済端末の設置場所はどうしてもそこ(バックヤード)になる」(浜屋百貨店)
だが、この配置だと、FeliCa決済や銀聯は運用がとてもしにくい。カード一体型のEdyやiDなら、従来どおり「カードを預かる」ことが可能だが、おサイフケータイを預けて支払うというのはユーザー側も抵抗感があるだろう。
さらに大きな課題なのが、銀聯カードの扱いだ。現在、日本における銀聯の決済では、デビットカードのような「暗証番号の入力」と、クレジットカード同様の「サインの記入」のふたつが必要になる。店員がカードを預かって、奥で決済してくるという運用はできないのだ。
「今のシステムですと、運用は『お客様にバックヤードまで来ていただく』という運用になってしまいます。あまりスマートではないのですけれど」(浜屋百貨店)
売り場の担当者に話を聞くと、最近は中国人観光客が増えており、化粧品のまとめ買いなどもあるという。それだけに銀聯カードの取り扱いで、決済端末の設置場所や運用に課題があるのは残念だ。iDやEdyなどFeliCa決済もそうであるが、百貨店などレジカウンター方式をとらない店舗用に、無線を使ったハンディ型決済端末の普及と価格低下は重要と言えそうだ。
「もっとケーブルが長ければ」――梅月堂の場合
次に訪れたのが、菓子店の「梅月堂」だ。ここは1894年に創業、現在114年目という歴史あるお店で、取材で訪れた洋菓子店のほか、和菓子も扱っている。
店内にはいると、洋菓子店ならではのガラスケースがあり、その中には色とりどりのケーキが並ぶ。ガラスケースの上にも、小さなマドレーヌやクッキーが置かれて、とてもおいしそうだ。昼食抜きで取材に臨んだ筆者の腹が鳴る。
しかし、ガラスケースの上を見渡しても、リーダー/ライターや決済端末がない。カウンターの奥を見ると、そこにレジがあり、決済端末はそこに置かれていた。店員に話を聞くと、iDやEdyを使うときは、リーダー/ライターを取り出してきてユーザーにかざしてもらうのだという。
「見てもらうと分かるのですが、レジからカウンターだと、ケーブルの長さがギリギリなんです。届くことは届くのですが、もう少し長いといいですね」(梅月堂)
もちろん、長さがギリギリなので、リーダー/ライターだけカウンターに置いておくこともできない。ケーブルにひっかかってしまうからだ。浜屋百貨店と同様に、レジカウンター方式でないことが運用の難しさにつながっている。
レジカウンターならば問題なし。お店ごとに設置に工夫も
一方、その後おとずれた店舗はいずれも「レジカウンター」だったため、新決済端末の導入に困った様子は見受けられなかった。例えば、文具店の「石丸文行堂」ではカウンターの上にポンと置かれており、近くにはiD/Edyのパンフレットやポップを置く余裕もあった。
また、感心したのが、店舗によってはリーダー/ライターの配置に工夫をしていたこと。スーパーマーケットの「S東美」はレジの横に小さな設置台を作り、かざしやすいように配置。これはスーパーマーケットでのFeliCa決済導入でよく見かける設置方法だが、ユーザーにわかりやすくロゴマークを見せて、配線を隠す上でも効果的だ。
さらに秀逸だと感じたのが、カフェ/レストラン/バンケットの「ノートレガール」の設置だ。写真を見てもらうと分かるが、レジのディスプレイの支柱にリーダー/ライターのケーブルをくるりと絡めて、ユーザー側にFeliCaセンサー面が向く形で設置している。絡めたケーブルが見えなければ、リーダー/ライター一体型レジだと言われても気づかないだろう。
「お客様が“かざしやすく”、なおかつレジ周りをすっきりと美しく見せるにはどうすればいいか考えて、このような置き方にしました」(ノートレガール)
店内の雰囲気を大切にするお店だけに、かなり試行錯誤をしたようだ。
決済端末設置に、配慮とデザインを
こうして多くの導入店舗を見て回ると、FeliCa決済などの新たな決済端末をどう受け入れるか、お店側の苦労や努力がいろいろと見て取れる。コンビニやファミレス、スーパーのように規格化された店舗が一律で展開しているわけではないので、決済端末の設置や運用には悩みが尽きないようだ。
しかし、FeliCaサービスやおサイフケータイが今後さらに広がり、ユーザーの利便性を高めるには、商店街で見られるような「多種多様な店舗」が苦労せずに導入できる決済端末やシステムが重要になってくる。特にレジカウンター方式でなくても使いやすい決済端末や、デザイン性よくリーダー/ライターを設置できる什器について、メーカーやアクワイアラの配慮がもっとあってもいいはずだ。
浜んまち商店街で新決済方式が受け入れられ、多くの長崎市民や観光客が利用するようになるか。期待を持って見守りたい。
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