モバイルでないとリーチできない層がある――シーエー・モバイル 向井克成氏:EC最前線インタビュー(3/3 ページ)
PC用ECサイトを持たず、携帯サイト16ショップで年商53億3千万円を売り上げるシーエー・モバイル。PCでなく携帯でインターネットを使うユーザー層とは、どのような人たちなのか。そして彼らにモノを売る極意とは?
向井 そうですね。まず、当然ながら自社の媒体だけでこんなに売上が上がったわけではありません。他社と同じように普通に広告も買ってプロモーションをしています。あとは、提携サイトを増やして、提携サイト経由での売上を上げることに成功した事だと思います。
規模が大きくなれば、公式サイトの重要性は下がっていく
吉田 例えば、どんな会社と提携しているのですか?
向井 アクセス数が多いジョルダンさんの乗換案内のサイトにショップを作らせて頂いたり(参照記事)、話題になったジェイマジックさんの“顔チェキ”と連携したり(参照記事)しています。
吉田 なるほど。大量のトラフィックのあるサイトにお店を出していく戦略が成功されているのですね。大量のトラフィックという観点では、例えばNTTドコモの公式サイトはいかがですか? 一番に出てきますよね。
向井 全体のトラフィックが大きくなっているので、現在では公式サイトの影響はそれほどでもないと思います。恐らく、上位3社くらいまでは大量のトラフィックがあると思いますが、このトラフィックだけでは食えないと思います。上位にいるメリットはありますが、保証されたものではありませんし。
吉田 公式サイト以外のトラフィックといえば、グーグルが携帯に搭載された影響も大きいですよね。検索エンジン経由のトラフィックはいかがですか?
向井 検索エンジン経由のトラフィックは間違いなく増えています。社内にSEM、SEOの専門部署があり、徹底的に研究しています。これら社内で培われたSEOのノウハウは外販も開始しましたので、皆様にもご活用いただければと思います。
吉田 なるほど、やはりこれから携帯の検索エンジン対策は必須ということですね。
“携帯でないとリーチできない層”は確実に存在する
吉田 最後に今後の課題や展望を教えてください。
向井 恐らく、売上の伸びが160%という(これまでの)ような成長は、今後は難しいと思います。同業他社の数字を見ていれば顕著だと思いますが、モバイルECのマーケットは段々と落ち着き始めていると感じています。
吉田 つまりは競争が激しくなる?
向井 そうです。ですから、サービスのクオリティーを上げて、“選ばれるサービス”を作る必要があるでしょう。しかしその一方で、モバイルでないとリーチできない層というのも確実に存在し、そうした人達がさらに増えていくことも間違いないと思っています。
吉田 その中で、今後気になるポイントはありますか。
向井 当たり前のことですが、気になっているのは通信キャリア各社の動向ですね。今後どうなるかは、私も判断しかねています。モバイルビジネスは、これまでキャリア主導で来ていますし、モバイル検索の件も含めて動きが激しい。今後、キャリアの動向は昔と比べてさらに重要になるのではと思います。2〜3年遅れで、PCと同じ状況になる可能性もあるなと考えています。
吉田 大変勉強になりました。どうもありがとうございました。
筆者より一言……モバイルECのマーケットは落ち着き始めている?
いかがでしたか? 恐らく、モバイルメディア企業のEC参入における代表的な成功事例ではないでしょうか。前回の日比谷花壇(参照記事)もそうでしたが、ネット通販の成功企業は他社との“提携上手”が多いように思います。Oisixも提携でいくつも成功体験があり、自分の体験を振り返っても納得できるところです。
それから最後の「モバイルECのマーケットが落ち着き始めている」という向井氏のコメントには驚きました。一般的には「モバイルEC自体はまだまだこれから」といわれることが多いためです。最前線にいらっしゃる方ならではの冷静なコメントとして、大変参考になりました。
吉田卓司:2000年にオイシックスを創業。代表取締役副社長として感動食品専門スーパー「Oisix(おいしっくす)」を日本でもトップクラスの食品ECサイトに育てた。現在はECコンサルティングを行っている。2007年7月、Oisixでの7年間のEC実業で培ったノウハウをもとに、企業向けに最適なECソリューションを提供する会社「オイシックスECソリューションズ」を設立した。
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