第19回 “待受画面”はとてもプライベートなエリアだと思うのです:コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく
デコメ、サイト、着うた、アプリなどなど……。一口にケータイコンテンツといっても種類はいろいろ。そのなかでも、今回は最古参の1つと呼べるケータイコンテンツ、待受画面について考えてみました。
突然ですが、皆さん待受画面にはどんな画像・データを設定していますか? お子さんがいらっしゃる方は、お子さんの写真でしょうか。動物を飼われている方なら、やっぱり愛するペットの写真でしょうか。ほかには、好きなキャラクターの待受Flashとか、好きなアーティストのきせかえメニュー連動壁紙とか、はたまたプリインストールされていた待受画像のままだったりとか……。とにもかくにも、待受事情は十人十色、人それぞれかと思います。
ウィジェット/ガジェットやらiコンシェルやらと比べれば、待受画面・壁紙のカスタマイズというのは、業界のなかでもとても古いネタ、最古参の部類に入るネタではありますが、今日はあえてこの話をしてみたいと思います。
待受画面はケータイ上における“プライベートエリア”の1つ?
「なぜにいまさら待受の話なんかするの?」と問われれば、それは自分が、とある待受Flash制作案件で思い悩んでいたことがあるからです(笑)。いや、でも待受のことを考えていくと、結構話が深くなっていきまして、最終的には旬な話にもつながったりするので、今回は少々お付き合いくださいませ。
で、まずはその、悩んでいた案件を簡単に説明させてください。何に悩んでいたかと申しますと、まぁ、ありがちといえばありがちなのですが、「まったく制約がない」ということに悩んでいたのです。
いわゆる、明確なターゲットがないタイプの案件ですね。男女どころか年齢すら特に指定はなし。そして、配布人数のボリュームがやたらと多い。多いというか、なんというか、まぁ相当な数でして、いわゆる“マス”がターゲット(?)の案件です。
そしてそして。手持ちの武器も基本なし……。1枚たりとも画像素材はないし、イメージソースすら基本ないのです。「えー!?」ですよ、ほんと。いや、これが何か国民的キャラクターのイラストなり、有名タレントの御尊影なりといった素材があるなら話は早いのですけどね。この案件には、そうした「とっかかり」が一切なかったのです。
強いてとっかかりを見出せば、配信時期、つまり季節となるのですが……。あとはもう我が社のクリエイティビティのみという状況だったので、いやはや地味に冷や汗が出ました。
個人的に、ケータイというのはニッチなもので、大変プライベートなツールだと思っているため、ケータイ上で展開するマス案件って、かなり苦手です。しかもこの案件は待受画面ですからね。冒頭の話に戻りますが、皆さんは待受画面に何を設定していますか? 今ちょっと確認していただいてもいいですか?
そうそう、その待受画面ではなく、コチラの待受を使ってもらいたいんですけど……。え? 娘さんの写真以外、絶対待受にはしたくはないと? な、なるほど、そりゃそうですよねぇ。
はい、そちらの方は……。あ、彼氏さんと学園祭で撮られたお写真をお使いで。それはもうそのままにされていた方がよろしゅうございますよね。
いえいえ、そ、そんなお孫さんとの記念写真をやめさせて無理やり僕が作った待受に替えろだなんて、そんなことを申しているのでは決してなく! め、滅相もない!!
……というわけで、一人小芝居にて己の不安を表現してみましたが、つまりはそういうことでございます。ちょっと大げさかもしれませんが、待受画面というのは、それくらいプライベートなエリアだと思うのです。プライベートなエリアだからこそ、「誰それ向け」とターゲットを明確にして、その人に届くものを作るべきという発想になっていくわけですが、今回の案件では、そうしてターゲットを絞ることができません。まぁ、数多く作って「自分で好きなの選んで持ってって」という方向性もあるにはあるのですが、配布場所の特性的にそういう感じでもないんですよねぇ。いやぁ困った困った。
「最高の何かを作るより、最大公約数の何かを作るほうが難しい」とはよく言う話ですが、個の時代に、その象徴的存在であるケータイで、最大公約数の何かを作るのは、やっぱりかなり難しいなと。というわけで、いろいろと試行錯誤しました。
なんにせよ、1つ外したくないなと思ったのは、皆さんがプライベートで大事にしている何か(お子さん、趣味、思い出etc.)にとって替わろうなどとは、絶対に考えないこと。
変な例えですが、「いつもの待受」をごはんやパンだとすれば、自分はナンあたりを目指すというか(笑)。主食として毎日食べるにはアレだけれども、たまに主食にしてもいいかなぁという存在ですね。でも、もしパスタくらいの頻度で選ばれるような質のものを考えられたら……すごいなぁ。
なんだか話が観念的過ぎるので具体的に言うと、「1週間だけ使って終わり」の待受というのもありかなぁと思っている次第なんです。いや、もう「1日」だけでもいい。Flashで時間を見て、その日1日、待受上でなにかしがのコンテンツが展開されるというような1日だけすごく楽しい待受。
“毎日使ってほしいんです”と言うと、さすがに設定してもらうためのハードルが高いですが、“1日で終わる待受なんです”なら、「たまにはごはんじゃなくて、ナンでも食べてみるか」となってくれるかなぁと思うわけです。
要は内容ではなく、気軽さという部分で利用促進するしかないかなぁと。……ヘタレな話ですけれども。ただ、そう考えると、そこで展開されるコンテンツは、ちょっとしたストーリーでも歳時記的なものでも雑学クイズ的なものでもいいし、なんにせよ企画の幅は広がるかなと。
それに、「1日だけ!」となれば、100Kバイト(Flash Lite1.1として)を、1日分につぎ込めるわけですからね。「時間限定で何かが表示される」といった遊びもふんだんに入れられるし、面白いものが作れそうです。
長らく平穏無事だった待受画面上で続々と新サービスが登場中
というわけで、待受Flashの試作品を作ってみたりしたのですが、待受の概念って、この1年くらいで随分変わりましたよね。画面の上を執事がテクテク歩いていたり(NTTドコモのiコンシェル)、待受上でサイトの更新情報をチェックできたり(auのau oneガジェット、ソフトバンクのモバイルウィジェット)……。
上でつらつら書いたとおり、待受画面ってそれはもうガチガチのプライベートエリアだと自分は思うのです。というか思っていたのです。せいぜいiチャネルやEZニュースフラッシュ、S!速報ニュースのテロップが流れているくらいで、基本的には大切な思い出写真や好きなキャラクター、好きなアーティストの画像を飾る場所であると。
そこに現れた「情報をもっと露出していこうぜ!」という大きな流れですが、みなさんはこうした待受画面での情報表示サービスに、どれくらい前向きですか? 率直に知りたいんですよね。
便利だし、新しいし、面白そうだし、使ってみたい……と思う一方、「いつも愛娘の顔を見ていたいのに、アイコンを置けるとか言われても、ホント邪魔だわ!」と思われかねない部分もあるのではと思いまして……。
ということで次回は、iコンシェルやauoneガジェット、モバイルウィジェットといった各社新サービスのUIなどを見ながら、待受画面の上で起きている、プライベートとパブリックの入り乱れ具合についてまとめてみたいと思います。
プロフィール:トミヤマリュウタ
ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立し、2008年に株式会社化。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。
関連キーワード
iコンシェル | Flash | モバイルウィジェット | au one ガジェット | コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく | 壁紙 | エージェント機能 | 執事 | 着メロ | iウィジェット | iチャネル
関連記事
- 「コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく」バックナンバー
- 写真で解説する「iコンシェル」
ドコモが冬モデルでの導入を予告していたエージェントサービスの詳細が明らかになった。サービス名称は「iコンシェル」。開始当初は4つのサービスを提供する。 - KCP+端末の「au oneガジェット」で何ができる?
KDDIは1月16日、報道関係者向けに実際に動作するKCP+端末を公開した。これまで概念や考え方、開発コンセプトは伝えられてきたが、実際の使い勝手や操作性はどうなのだろうか。実機で確認してみた。 - 写真で解説する「モバイルウィジェット」
待受画面上でリアルタイムに情報を確認するための新サービスとして、ソフトバンクモバイルが提供する「モバイルウィジェット」。使い勝手や仕様、特徴などを写真で紹介しよ - 第17回 エージェントの皆さん、“節度”を持ってサポート願います
iコンシェル、そしてauが来年早々に開始するという「『感性型』エージェントインターフェース」(β版)といった「行動支援サービス」。やろうと思えばどこまでもできそうですが、やりすぎると逆に迷惑認定されそうです。あいまいな言い方ですが、そこには“節度”が必要になるんじゃないでしょうか。 - 第16回 「iコンシェル」が順調に滑り出しますように
個人的に注目していた「行動支援サービス」が、ついに現実のものとなりました。ケータイ独自のネットサービスがスタートすることにワクワクしているのですが、いまいち盛り上がっていないので、盛り上げに一役買おうと思い、2回に渡ってつらつら書いてみます。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.