すべてのクリエイティブのために――「iPad Pro」がかける「もうひとつの魔法」(2/2 ページ)
iPadに、12.9型という大きなディスプレイを搭載した「iPad Pro」が加わった。Apple初となる“大きなiPad”は、どのような価値とユーザー体験をもたらすのか。使用リポートとともに考えてみたい。
iPad Proはビジネスパーソンにも向くか?
さて、ここで1つの疑問が生じる。
これまでiPadは、カジュアルなコンピュータとして、主にコンテンツやネットサービスを気軽に使うためのプレーヤー(再生機)的な存在だった。iPadの進化の過程で、iPhotoやiMovie、さらにはiWorkといった生産的なアプリが用意されていったにせよ、「仕事で使うMacと、カジュアルに楽しむiPad」というすみ分けができていたのだ。
しかし今回のiPad Proは、明らかにクリエイティブ作業をするための道具だ。MacBookの領域に踏み込んでおり、誤解を恐れずにいえば、MacBookと競合している。特に2015年4月に投入された新しいMacBookが、拡張性を大きく削ぎ落としてデジタルハブの機能を捨て、アプリとクラウドサービスをシンプルに使う方向に進化したため、よけいにiPad Proと“キャラがかぶる”のだ。ユーザーは、一体どちらを選べばいいのか。
まず、iPad Proを選ぶメリットが大きいと真っ先にいえるのが、グラフィックデザイナーや音楽・映像のクリエーターだろう。iPad ProのRetinaディスプレイの解像度・美しさはMacBook以上であり、グラフィックス性能もすこぶる高い。Apple Pencilという魅力的な入力デバイスもある。既にAdobeやAutoCADなどグラフィックス系を中心に、iPad ProとApple Pencilに最適化されたアプリを投入する方向だ。デザイナーやクリエーター職の人が、モバイルでもプロの仕事をするための道具として、iPad Proはほぼ唯一無二の選択肢になるだろう。
しかし自慢ではないが筆者は絵心がない。犬を描かせれば必ず空想上の生き物になり、真っすぐな線を引くのもきれいな字を書くのも苦手である。だから白状すると、iPad ProとApple Pencilを使い始めた頃は渋々であり、「仕事で使うならMacBookの方が便利だろう」という先入観があったのは確かである。
だがその先入観は、iPad Proを仕事で使い始めたら、あっさりと覆った。もちろん文字入力の多い仕事ではMacBookの方が圧倒的に便利なのだが、iPad Pro+Apple Pencilは従来のノートPCとは違うビジネスでの活用ができるのだ。
それが「iPad Proをホワイトボードとして使う」という使い方である。iPad Pro+Apple Pencilには、標準のメモアプリだけでなく、「Paper」などビジネス用のメモ/アイデアスケッチアプリが対応してきている。これを用いて打ち合わせ中にビジネスモデルやシステム図を模式図として描いて、それを見ながら議論するというのが、とても役に立つのだ。
周知の通り、ビジネスシーンでは常にホワイトボードのある環境で会議や打ち合わせができるとは限らない。その時に12.9型のディスプレイにさっと図を書いて見せれば、ホワイトボードがなくても論点の整理ができる。さらに描いた内容はデジタルデータなので、保存やキャプチャーをして後から参加メンバーで共有するといったことも簡単だ。
このホワイトボード的な使い方が役立つのは、会議の時ばかりではない。仕事の合間にカフェやホテルのラウンジに寄り、そこでアイデアをまとめる際にも役に立つ。またMicrosoftのPowerPointが、iPad Pro+Apple Pencilによる作図に対応して登場する予定なので、それが出れば本格的なパワポの資料作成にも使えるだろう。iPad ProとApple Pencilの組み合わせは、ビジネスのクリエイティビティを高めるポテンシャルも備えているのだ。
デザイナーなどクリエーター向けと思われがちなiPad Proであるが、ささっと手書きができるメリットを生かして、会議や打ち合わせ時のホワイトボード代わりに使うのはとても便利だ。日常的にビジネスやサービスのスキームを考えなければならないホワイトカラーにも、実はお勧めである
クーパーSとiPad Proで駆け抜けろ
筆者はPCとスマートデバイスについての講演を依頼されことが多いのだが、その度に「PCはセダンのような存在だ」と話してきた。PCは生産活動と消費活動のどちらにも使えて、中途半端ではあるが万能でもある。この中途半端で万能なところが、クルマの基本形であるセダンと類似しているのだ。PCの中でもデザインがよくてクールなMacは、プレミアムブランドのスポーツセダンといったところか。
PCがセダンであることに対して、iPadはクーペのような存在だ。機能・用途がある程度制限される代わりに、コンパクトで乗り心地がよく、とても上質な体験ができる。セダンとクーペがすみ分けできているように、MacとiPadもきちんとすみ分けできていた。
しかし今回のiPad Proは、そういった用途・カテゴリーのすみ分けを飛び越える存在だ。性能や機能性の面を拡張しつつも、実用性一辺倒ではない。ある程度の制限はあるし、おしゃれさやデザイン的なこだわりも健在だ。そういった欲張りな感じが何かに似ているなと思って、脳裏によぎったのが、MINIのホットバージョン「クーパーS」だった。コンパクトでおしゃれな雰囲気を大事にしつつも、高性能と実用性も追い求めている。デザイナーやクリエーターはもちろん、仕事にこだわりのあるホワイトカラーまで幅広くウケがいいところも、iPad Proとの共通項になるかもしれない。
これまでと同じiPadを求めるならば、iPad Proはあまり適さないかもしれない。しかし、すべてのクリエイティブな人たちのための新しい道具としては、iPad ProとApple Pencilは魅力的な選択肢になるだろう。
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