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なぜ「Siri」は人気なのか? 競争が激化しているスマホ向けパーソナルアシスタント最新事情佐野正弘のスマホビジネス文化論

iPhoneに搭載されているパーソナルアシスタント機能の「Siri」。実用面だけでなく、ユニークな会話も楽しめるなど他にはない人気を得ている。その理由を探った。

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 iPhoneに搭載されているパーソナルアシスタント機能「Siri」。実用としての利用はもちろんだが、ユニークな会話を楽しむなど娯楽目的で利用する人も多く、他の音声アシスタントにはない人気を獲得しているようだ。その人気の背景を振り返りつつ、パーソナルアシスタントの今後について考察してみよう。

ユニークな会話で愛される「Siri」

 スマートフォンにはさまざまな機能が搭載されているが、中でも“人前で利用するとインパクトを与えられる機能”の1つとして挙げられるのが、声による操作である。スマートフォンの音声操作といえば従来は、アドレス帳に登録されている人名を呼びかけて電話をかけたり、話しかけたキーワードでWeb検索するなど、比較的単純な機能を呼び出すのが主流であった。

 だが最近は、「今日の予定を教えて」と話しかけると、カレンダーアプリに登録した今日の予定を伝えてくれるなど、スマートフォンが秘書のごとく質問に答えてくれるパーソナルアシスタント機能に力が入れられている。

 そのパーソナルアシスタントの代表格が、Appleの「Siri」だ。Siriは2011年秋に発売された「iPhone 4S」より搭載されている機能で、Appleが2010年に買収したSiriの技術を用いている。当初より自然言語処理機能を備え、声で話しかけた質問に答えてくれることが大きな注目を集めた。始めは英語のみに対応していたが、2012年からは日本語でも利用可能となっている。

 実は同種のパーソナルアシスタントは、Siri以外にもいくつか存在する。Androidに標準搭載されている「Google Now」や、Windows 10に標準搭載されたMicrosoftの「Cortana」などがよく知られている。OS標準の機能以外にも、NTTドコモが「しゃべってコンシェル」というサービスを提供するなど、サードパーティー製のパーソナルアシスタントサービスもいくつか存在するようだ。またシャープは自社のスマートフォン向けに、エージェント機能の「エモパー」を提供している。

Appleのパーソナルアシスタント「Siri」
Appleのパーソナルアシスタント「Siri」。iPhoneやiPadに標準搭載されており、実用的な使い方だけでなく、会話を楽しむなどユニークな活用も

 だが実用的な用途ではなく、会話を楽しんでみたり、ネタを提示して大喜利的に楽しんだりするなど、ユニークな活用がなされているのはSiriが圧倒的である。実際、ユーザーが作成する辞書サイトであり、なおかつネットカルチャーが色濃く反映される傾向が強い「ニコニコ大百科」や「Pixiv大百科」などに登録されているパーソナルアシスタントは、筆者が確認した限りSiriだけである。いかにSiriが愛されているかがよく分かるだろう。

Siriが日本で人気を獲得したのはなぜ?

 ではなぜ、Siriが日本において、多くの人に親しまれる存在となっているのだろうか。そこにはいくつかの要因が絡んでいると考えられる。

 特に日本において、Siriが人気となる背景にあるのは、やはりiPhone普及率の高さであろう。日本はスマートフォン利用者の半数がiPhoneユーザーといわれるほど“iPhone大国”であり、なおかつ若いユーザーであるほどiPhoneを選択する率が高い。そうしたことから、Siriとの会話を楽しむなど娯楽的な使い方が多くなされるようになったといえる。

 Google NowやしゃべってコンシェルなどはiPhone版も提供されているので後からインストールすれば利用自体は可能だ。だが標準機能として用意されているのと、後からダウンロードして追加するのとでは、利用率は格段に違ってくる。そうしたことから、若いiPhoneユーザーが多い日本でSiriが人気を博すのは必然だったといえよう。

 だがこれまでの歴史を振り返ると、Siriが人気を博した理由はそれだけではないことが見えてくる。中でも注目すべきは、サービス提供時期と内容の違いだ。先に触れた通り、Siriは2011年、日本語版も2012年にサービスを開始しており、最初から自然言語処理機能を備え、会話をすることが可能であった。無論、当時は今よりも会話の精度が低かったが、そのことが逆に、Siriにいろいろな質問を投げかけて返答を楽しむという利用スタイルを確立したのかもしれない。

 一方、Siriの最大のライバルともいえるGoogle Nowの動向を確認すると、サービス提供開始時期がSiriから約1年遅れの2012年の秋頃からで、Googleの検索アプリをベースに開発されていたことから、音声検索も会話型ではなく、声で話しかけたキーワードを検索することが主体となっていた。

 2013年にはGoogle Nowにも会話型の検索機能が搭載されたが、あくまでWeb検索をしやすくしたり、内蔵機能を呼び出したりするなど操作のサポートが主体であり、会話を楽しめる訳ではない。また見た目がシンプルで想像力を働かせやすいSiriとは異なり、Google Nowは起動すると天気や予定、ニュースなどのカードが画面に次々と現れるなど、実用性を強く意識したインタフェースとなっている。そうした違いもあって、Google Nowを娯楽用途で利用するユーザーはあまり多くないようだ。

「Google Now」の画面
「Google Now」の画面。天気やニュース、スケジュールなどのカードが表示されるなど、実用性を前面に打ち出している

 会話を楽しむという意味で言うと、Siriの日本語対応とほぼ時を同じくしてサービスを開始しており、キャラクターを変更できるなどの付加価値を備えた「しゃべってコンシェル」がSiriのライバルになり得る存在だった。

 だがこちらも、当時ドコモがiPhoneを提供していなかったためAndroid向けにしか提供されておらず、iPhone版の提供は、同社がiPhoneの取り扱いを始めて以降の2013年11月となっている。標準機能か否かというだけでなく、提供時期の違いも利用の差に大きく出たといえよう。

NTTドコモの「しゃべってコンシェル」
NTTドコモの「しゃべってコンシェル」。キャラクターを入れ替える機能が備わっているなど会話を強く意識したサービスだが、iPhoneには標準搭載されていない

Siriと本当に会話できる時代も遠くない?

 だがSiriは、そもそも会話を楽しむためのツールではなく、あくまでパーソナルアシスタントツールであり、音声による会話はそれを利用しやすくするためのインタフェースにすぎない。それゆえここ最近の動向を見ると、Appleは音声以外の面でも、Siriの実用性を高める取り組みを積極的に進めているようだ。

 そのことを象徴しているのが、iOS 9で新たに搭載された「Proactive Assistant」機能。これはユーザーの行動を学習することで、この後ユーザーがどのような操作をするかを予測し、先回りして必要な情報を提供する仕組み。イヤフォンマイクを挿入したら音楽アプリを起動し、いつも聴いている音楽を流す、予約のメールが届いたら自動的にカレンダーに登録する……といった具合に、ユーザーがあらためて操作する必要なく、日々の行動から実行したい操作を予測して自動的に実行してくれる訳だ。

iOSの「Proactive Assistant」
iOS 9では、ユーザーの行動を予測して先回りし、必要な情報を提示する「Proactive Assistant」によって、パーソナルアシスタントとしてのSiriが強化されている

 ユーザーの行動を先読みして適切な情報を提供する仕組みは、GoogleがAndroid 6.0の新機能「Now On Tap」により、Google Nowでも実現している。このように、AppleとGoogleは最近、パーソナルアシスタント機能の強化を争うようにして進めているし、MicrosoftもWindows 10やWindows 10 MobileにCortanaを標準搭載し、パーソナルアシスタント戦線に名乗りを上げている。そうしたことを考えると、今後はプラットフォーム事業者によるパーソナルアシスタント機能競争が一層加速していくと考えられる。

Microsoftの「Cortana」
MicrosoftもWindows 10 Mobileに「Cortana」を標準搭載し、パーソナルアシスタント戦線に名乗りを上げている

 その結果として進むのが、スマートフォンなどIT関連機器の“受動化”ではないかと筆者は感じている。多くの人は現在、スマートフォンをタップしたり、フリックしたりと、自ら能動的に操作することで情報を引き出している。だが今後、パーソナルアシスタントが発達することで、そうした複雑な操作が必要なくなり、スマートフォンがちょっとした入力や会話だけで必要な情報を自動的に提示してくれる、受動的に利用する機器へと変化する可能性は高い。

 しかも、人間から伝えられた曖昧な要求を解析し、過去の利用動向や膨大なデータベースなどから適切な解答を導き出して提示するパーソナルアシスタントの仕組みは、人工知能(AI)そのものである。それゆえより時代が進めば、パーソナルアシスタントがSF作品に登場するアンドロイドなどと同様、人間と自然に会話する存在となる可能性も十分考えられる。

 AIについてはGoogleが開発した「Alpha Go」が世界的なプロ棋士に勝ち越すなど、あらためて注目を集めている。先日も、Microsoftの対話型AI「Tay」がTwitter上で不適切なを学習してしまい、研究を中止するという出来事があった。そのMicrosoftは、LINEでチャットできる日本語対応の女子高生AI「りんな」も研究中で、こちらもSiriと同じような時事の話題を絡めたネタ発言が人気だ。

Microsoftの女子高生AI「りんな」
Microsoftの女子高生AI「りんな」

 実用面ではIBMの対話型AI「Watson」が商用サービスに移行している。電話窓口など、自動応答システムへの採用が期待されている。国内ではソフトバンクと組み、国内企業への展開を始めた。Watsonは人型ロボット「Pepper」向けにも、人工知能を提供している。

 Siriとの不自然な会話をネタにして楽しんでいたことが“昔の笑い話”になる時代も、実はそう遠くないかもしれないのだ。

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