曲がり角を迎える“キャリアの戦略” KDDIとソフトバンクの決算を読み解く:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
2016年度は増収増益と好調のKDDIとソフトバンク。一方で2社とも、1人辺りからの収益であるARPUを上げる戦略が、曲がり角を迎えていることがうかがえる。今後はどんな戦略で収益を上げていくのだろうか。
4月に発表していたドコモに続き、KDDI、ソフトバンクも通期決算が出そろった。2社とも増収増益で、ソフトバンクについては、純利益が1兆円の大台を超えるなど、好調さを維持している。一方で、KDDI、ソフトバンクの2社とも、モバイル事業では、2016年4月に施行された端末販売適正化のガイドラインの影響がボディーブローのように効いているようだ。契約者数を増やし、1人辺りからの収益であるARPUを上げる戦略が、曲がり角を迎えていることがうかがえる。
MVNOやサブブランドを含めての純増維持に方針を転換
KDDI、ソフトバンクとも、年間を通して純増を維持した。KDDIはauの契約者数とMVNOの契約数を足した「モバイルID」数が、2602万を突破。ソフトバンクも、スマートフォンやタブレットなどの「主要回線」に絞った契約者数が3240万を超え、年間で36万の純増を記録した。「累積ユーザー数は、着実ではあるが、安定的に伸びている」というのが、ソフトバンクグループの孫正義社長の見方だ。
一方で、純増数の“内訳”を見ると、かつてのように、右肩上がりの成長にはブレーキがかかっていることが分かる。KDDIは、モバイルID数は増加を維持できたが、auの減少分をMVNOの増加分がカバーした格好だ。傘下のUQ mobileが端末や料金プランを整備し、本格展開を開始したことに加え、ドコモのネットワークでMVNO事業を行うビッグローブを買収したことで、MVNO契約数は2016年の6月の16.3万から、2017年3月には87.4万に急増している。ガイドラインの影響を問われたKDDIの田中孝司社長も「市場全体で見ると、MNO間の競争はほぼ膠着化していて、ほとんど流動が出ていない。逆に言うと、MNO以外、MVNOに向けての流出が顕著に出ている」と危機感をのぞかせた。
こうした現状を踏まえ、KDDIは「MVNOの普及が拡大している現状を踏まえて変革する」(田中氏)といい、先に挙げたモバイルID数という概念を導入。au単独での成長から、UQ mobile、J:COM MOBILE、BIGLOBEといった傘下のMVNOを含めた成長に、方針を転換。「ID数は(auとMVNOの)両方で見ていき、ARPA(1契約ではなく名寄せした1人あたりからの通信料収入)はできるだけ維持する。さらに付加価値ARPAを増やし、全体で増収を目指す」(同)ことを目標に据えた。
通期では純増を維持できたソフトバンクも、懐事情はKDDIと大きく変わらない。ソフトバンクの場合、MVNOの立ち上がりが遅れ、3月にようやく日本通信やU-NEXTが同社の回線を使ったサービスを始めたばかりだ。そのぶん、自社で直接運営するY!mobileが好調で、ユーザー数を伸ばしている。孫氏もこれを認め、「(純増は)Y!mobileを足しての話」と語る。ARPUを見ても、下落傾向が顕著に出ている。2015年度は通信ARPUとサービスARPUを合算した総合ARPUが4700円だったのに対し、2016年度は4500円と200円低下した。
これは、「(ソフトバンクに比べて料金の安いY!mobileは)ARPUが少ないので、引っ張られがちになる」(同)ためだ。
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