MVNOのSIMが手元に届くまでに行われていること:MVNOの深イイ話(2/3 ページ)
スマートフォンの利用に欠かせないSIMカード。大手家電量販店の携帯電話コーナーでは、MVNO各社のSIMカードがパッケージに入れられて並んでいるほか、カウンターで渡してくれる場合もあります。SIMカードが手元に届くまで、何が行われているのでしょうか?
「お店で焼いています」――カウンター渡しSIM
ところで、量販店店頭にあるパッケージのSIMは、「データ通信専用」あるいは「データ通信・SMS対応(音声通話非対応)」のものばかりで、「音声通話対応SIM」がパッケージとして提供されることはありません。これは、SIMに書き込まれる電話番号の取り扱いに理由があります。
データ通信専用のSIMであっても電話番号が割り当てられている、ということに気づいている方は少なからずいらっしゃるかと思いますが、その電話番号を意識して使っている方はほぼいらっしゃらないかと思います。実は、データ通信専用のSIMの電話番号は、そのSIMを区別する以外に使い道がありません。
一方、音声通話対応SIMでは、電話番号は「電話」に使いますので、とても重要な意味を持ちます。他の携帯電話会社からMVNOに契約を変更する際に、それまで使っていた電話番号を継続して利用する「MNP転入」をする場合もあるでしょう。ここで、SIMにどのタイミングで電話番号を書き込むのかが問題となってきます。
量販店の店頭に配置されたパッケージのSIMは、前述のようにMVNOの作業拠点であらかじめ電話番号などの情報が書き込まれています。この時点では、どのSIMがいつ、誰が利用するものかは分かりません。もし、利用者がMNPで転入したいと思っても、パッケージのSIMには既に電話番号が書き込まれているため、販売時にそれを書き換えられないのです。これでは利用者の要望を満たせません。
そこで登場したのが、MVNOの契約を受け付ける専門の店舗や量販店のカウンターです。これらのカウンターでは、利用者との契約手続きを行うだけでなく、店舗内でSIMのプロビジョニングを行っています。多くの場合、カウンター付近やバックヤードに通信回線が引き込まれ、プロビジョニングのための装置が設置されています。これは、MVNOがキャリアから借り受けた装置を店舗に設置する、という形になっています。プロビジョニング装置の近くにはMVNOの管理システムの端末も設置され、物流拠点で行われているような「SIM焼き」作業が行われています。
これにより、MNP転入を希望する利用者が現れた場合でも、その場で引き継ぐ対象の電話番号を新しいSIMカードに書き込むことができるのです。
SMS対応SIMの場合
SMS対応SIMの場合、SMSの送受信に電話番号が使われますので、データ通信専用SIMとは事情が異なります。しかし、SMS対応SIMはMNP制度の対象ではなく電話番号を引き継ぐことはできません。プロビジョニング時には新しい電話番号を割り当てることしかできませんので、店頭でプロビジョニングするメリットはありません。このためMVNOによってはデータ通信専用SIMと同じようにプロビジョニング済みのSIMをパッケージで店頭販売している場合もあります。
「半分焼いた状態でお届けします」自宅開通SIM
カウンターにプロビジョニングの機器を置くことで、音声通話対応SIMのMNP転入に対応できます。しかし、カウンター設置のためには地代や人件費はもちろん、プロビジョニング装置を利用するためのコストが掛かります。小規模なMVNOでは店舗をやカウンターを構えないこともありますし、大規模なMVNOであっても、大手携帯電話会社のように全国津々浦々に店舗を設けることは困難です。そこで利用されるのが、Web申し込みなどによる通信販売方式です。
通信販売方式で音声通話対応SIMでMNP転入を受け付ける場合、申し込み時に引き継ぐ電話番号を確認し、MVNOの作業拠点でその番号をプロビジョニングで書き込みます。その後、電話番号が書き込まれたSIMを宅配便などで利用者の元へ届けます。
先ほど、プロビジョニングの際にはSIMカードへの情報書き込みとキャリアのシステムへの情報登録が行われると書きましたが、MNP転入を行う場合は「転入元の携帯電話会社が発行したSIMカードを無効にする」という手続きが同時に行われます。これを行わないと、同じ電話番号を持った異なる会社のSIMカードが同時に複数の携帯電話会社から発行されることになり、電話の発着信に支障が出るためです。ところが、通信販売方式の場合はこれが問題となります。
利用者にSIMを渡すためには、新しいSIMのプロビジョニングをしなければなりません。新しいSIMのプロビジョニングをすると、古いSIMが無効になり、利用者のスマートフォンが使えなくなります。しかし、このタイミングで新しいSIMはまだMVNOの作業拠点にあります。直ちに宅配便で発送したとしても、新しいSIMが利用者の手元に届くまでの数日間、利用者は電話が使えない状態で待つことになってしまうのです。
そこで、通信販売方式では、SIMのプロビジョニングを2段階に分けるというやり方を取ります。まず、MVNOの作業拠点でSIMに電話番号を書き込みますが、このタイミングではキャリアのシステム上の情報は完全には登録されない、保留状態として扱われます。また、MNPする前の古いSIMカードの無効化も行われません。この状態で新しいSIMカードを利用者の手元に送り、利用者がすぐにスマートフォンのSIMを交換できるように準備ができたタイミングで、キャリアのシステムへの情報の登録と、古いSIMの無効化を実施するのです。こうすることで、SIMの配送にかかるタイムラグを回避してMNP転入が行えるようになりました。
この、「電話番号などの情報は書き込まれているが、キャリアのシステムに登録されていないSIM」は通称「半黒SIM」と呼ばれています。名前からは生焼けのSIMのような印象を受けますが、実際にはSIMとして必要な情報は全て書き込まれた完全な状態です。完全な状態であっても、キャリアのシステムに情報が登録されていないため、半黒状態では通信には利用できないのです。
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