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インタビュー

総務省はなぜ「分離プラン」を徹底させたいのか? 電気通信事業部長に聞く(3/3 ページ)

2019年のモバイル業界は、通信料金と端末代金を分けた「分離プラン」によって変わろうとしている。分離プランでは、通信契約を伴う端末代金の割引や、端末購入に伴う通信料金の割引が禁止となる。総務省が分離プランを推進する狙いはどこにあるのか?

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MVNOにとってはむしろチャンス

―― キャリアが分離プランに一本化して、通信料金が安くなると、既に分離プランを導入していて、キャリアよりも通信料金が安いMVNOにとっては、不利になりませんか?

秋本氏 私はむしろチャンスだと思っているんですよ。縛りがなくなるという点はチャンスですよね。これまで、違約金なしに解約できる月は、以前は25カ月目から26カ月目でしたが、3月から24カ月目〜26カ月目の3カ月になりました

 また、料金プランの期間拘束あるなしで、月1500円違うと2年で3万6000円、月2700円違うと2年で6万8400円違います。そうすると乗り換えの機会が少なくなるので、MVNOに乗り換えようといっても、しばらくキャリアを使おうとなります。そこの縛りをなるべく外そうということです。

2年縛りよりも「期間拘束の有無による料金差」を問題視

―― 「縛り」というのはいろいろな定義がありますが、2年以内に解約すると、解約金が約1万円かかる、いわゆる通常の「2年縛り」もなくす方向なのですか?

秋本氏 縛りという言葉も分解して考える必要があります。「違約金が高いこと」と、「期間拘束の有無で料金が違うこと」。違約金がなければいつでも辞められるわけです。一方、あえて2年縛られてもいいけど、その代わり月あたり1500円、2700円安いと。これも縛りになります。ところが、期間拘束の有無による料金差がほとんどなくなると、乗り換えが比較的たやすくなりますよね。あまり縛りと感じなくなる。

―― 2年縛りを完全に撤廃するということではない。

秋本氏 2年間の契約自体がダメだということよりは、違約金の高さの水準や期間拘束の有無で料金が違う方が、縛りとしては大きいかなと。

楽天の「分離プラン免除」疑惑は?

―― 新規参入する楽天モバイルネットワークのみ、分離プランの適用を免除するという報道がありました。これに対し、石田総務大臣は「対象外とするのは極めて限定的」とコメントしていますが、楽天は限定的なケースに該当するのでしょうか?

秋本氏 完全分離とは何か? という話に戻ると、「抜けをなくす」のが趣旨なので……。例えば、大手通信キャリアが自社では割り引かずに、子会社を作ってそこに(割引を)やらせる。そういうことだってできてしまいます。抜けはなくし、端末代金と通信料金を分かりやすく示すことを徹底させるのが趣旨です。

―― ということは、MVNO(楽天モバイル)からの移行を除けばゼロからスタートする楽天についても、例外的な扱いはしないということでよろしいですか?

秋本氏 完全分離の趣旨からすると、その方向ということです。

―― 今回の法規制の内容は、キャリアだけではなくMVNOも対象という理解でよろしいですか?

秋本氏 一定の契約数を有しているところは対象にする必要があるのかなと。

―― ということは、例外も……?

秋本氏 なるべく少なくしようということです。

中古市場はむしろ活性化する?

―― 中古市場についてですが、分離プランで端末が売れなくなると、端末の流通が減って市場が縮小するのではという懸念もあります。

秋本氏 いやむしろ、ニーズが高まるんじゃないですかね。新品だと手が出ないという人でも、1世代前の中古端末なら使ってみようというニーズが高まると思うので、日本で中古市場が厚みを増してくるようなお手伝いは、法整備とは別に、どんどんやっていきたいですね。

―― 法改正が実現したとして、どう業界が変わっていくことを期待されますか?

秋本氏 シンプルで分かりやすい料金プランを提示いただきたいと、願うような気持ちです。MNOとMVNOを含めて、より競争が促進されることを念願して、その環境を整えるための法整備だと捉えています。

取材を終えて:過去の反省を踏まえた強い意志を感じた

 総務省が分離プランを推進するのは、端末を購入する/しないに関わらず、同じ料金水準を実現するという公平性を担保するため。端末購入補助に使われていた原資を通信料金の割引に充てれば、誰もがその恩恵を受けられるので、健全な競争環境になるというわけだ。

 「分離プランを徹底すべし」という議論は2007年にも行われたが、その基準があいまいで、形骸化した背景がある。こうした過去の失敗を踏まえ、今回は基準を明確にし、法改正にも踏み出して販売代理店は届出制にすることで、キャリアとショップ双方の逃げ道をふさいだ格好だ。秋本氏が何度も「抜け道をなくす」と言っていたことからも、分離プランを徹底させるという強い意志を感じた。

 分離プラン「しか」選べなくなるのは、当然ながら賛否両論あるが、総務省が健全とする競争環境に変えるにはドラスティックな措置を講じる必要があると、過去の経緯も踏まえて判断したのだろう。

 分離プランが導入されれば、頻繁に機種変更をしない人は、単に通信料金が安くなって大きな恩恵を受けられる。その一方で、頻繁に機種変更をする人、特に高額な端末を買い替える人にとっては、通信料金と端末代金を合わせた支払額は、むしろ増える可能性がある。ハイエンド機が主流のメーカーにとっても向かい風になるだろう。

 このように、分離プランの義務化は痛みを伴う改革になりそうだ。短期的に見れば、デメリットの方が際立つかもしれないが、長い目で見て、より多くのユーザーが恩恵を受けられる環境になることを期待したい。

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