ドコモは分離プラン/5G時代をどう戦い抜くのか? 吉澤和弘社長インタビュー(3/3 ページ)
2019年は、モバイル業界が大きく変わる年になる。改正された電気通信事業法が2019年秋に施行され、分離プランが義務化される。これを見据えて、NTTドコモは6月から新料金プランを提供している。同社の吉澤社長に、分離プラン時代の戦略を聞いた。
9月のiPhone商戦はどうなる?
―― 改正法案の施行は10月からといわれていますが、9月のiPhone商戦はどうなるのでしょうか。
吉澤氏 iPhoneは、毎年9月後半ぐらいに発売されています。10月1日まで10日間くらいありますが、われわれのおかえしプログラムは、今もiPhone XSやXRは対象にしているので、今の仕組みでそのまま行きます。新しいiPhoneが出たからといって、インセンティブを増やすことは今のところ考えていません。
他社は4年割賦やキャッシュバックを続けるかは分かりませんが、10月以降はそれができなくなるので、iPhoneも同じように補助は2万円以下になるのだと思います。
―― 総務省が2年間の総額表示を義務付けるという報道も出ていますが、どう対応していきますか?
吉澤氏 端末と回線を分離したのになぜ総額を表示するのか? というのはありますが、料金を「2年間こうですよ」という案内は、今でもやっているので、対応可能です。
5Gプレサービスはスマホが主役に
―― 2019年9月の「ラグビーワールドカップ」を皮切りに5Gプレサービスを始めますが、どのような内容になるのでしょうか。会場だけでなく、地方でも展開するとも聞いています。
吉澤氏 ラグビーワールドカップの12会場のうち8会場は、5Gのエリア化をする計画で工事を進めています。スタジアムでは、5G対応のスマートフォンを観客の方にお貸しして、試合会場のマルチアングル映像の中から1つ選んで、自分が見ているところ以外の映像をリアルタイムでも見られる。試合の内容やファウルの解説、選手のスタッツ(成績)も見られるようにしようと思っています。
ただ、なかなか見に行けない方もいらっしゃるので、全部というわけにはいかないですけど、ある会場でパブリックビューイングをやろうと思っています。大きな画面で臨場感あふれる、グラウンド全体の映像が見られるようにします。場合によってはゴーグルを使うかもしれません。ラグビーに限らず、サッカー会場でもプレサービスを考えています。
後は法人向けです。法人も全部プレサービスをできるわけではありませんが、今までもいろいろなトライアルをやっているので、サービスに近いものは体験できます。例えば、人手不足や新人研修などの現場で、生産現場でグラスをかけて、どうやればいいかを遠隔で指導することもできます。ゴーグルを付けて城跡を見ながら、「昔はどうだったのか」といったことを、大学の先生に遠隔で解説してもらう、ということも考えています。
―― プレサービスの料金はどうなるのでしょうか。
吉澤氏 料金は取りません。料金は来年(2020年)春の正式ローンチからいただきます。当然、終わった後にスマホは返していただきますが、そのあたり(の詳細)を今、考えているところです。
―― プレサービスではどのメーカーのスマホを使うのでしょうか。ソフトバンクが、フジロックを舞台にした5Gプレサービスを提供しますが、シャープとソニーモバイルのスマートフォンを使うことを発表しています。ただ、スマホ自体は受信機として使うため、ユーザーには配られませんが……。
吉澤氏 私どもは……まだ明確には言えませんが、当然、スマホの形です。
―― プレサービスのデバイスはスマホがメインになると。
吉澤氏 まずはそうですね。正式ローンチの後にやりたいのは、5G時代に何を見せるか。データはガンガン来ているわけですから、スマホの画面だけで臨場感をというのは難しい。XRやウェアラブル、360度カメラなどの周辺機器ですよね。そういったものが、5Gのハブであるスマホにつながるように、いろいろなパートナーと作り込んでいます。
MR(複合現実)の分野でMagic Leapに出資をして、共同開発をしています。そういったものを、5Gと(スマホをハブにしてさまざまな機器がつながる)マイネットワーク構想の目玉として見てもらおうと思っています。
ローンチに間に合うかは分かりませんが、お客さんには、こういう世界になることを見ていただけると思います。
―― Magic Leapが開発したデバイスは、ドコモ独自のものになるのでしょうか?
吉澤氏 いえ、デバイスはMagic Leapが開発していますので、コンテンツの見せ方、コンテンツとデバイスの同調性を見ないといけません。そういったところを検討させてもらっています。
単に速度を上げるだけなら今でもできる
―― 海外では韓国と米国で5Gが始まっていて、日本は5Gで遅れているという論調もありますが、どう見ていますか?
吉澤氏 そういうことではないですね。回線が5Gになってダウンロードが速くなったというだけなら、今でもできます。いただいた周波数を使い、ユースケースがマネタイズされて、お客さんからお金をいただける状態でスタートする。「ネットワークができたけど、それを使う例が出てこない」というのが今まででしたけど、実際のサービスやソリューションが、ネットワークと同時に出てくることがローンチだと思っています。
―― 5Gでは他キャリアも、パートナーと組んでソリューションを提供する「共創」(※ドコモは「協創」としている)をアピールしていますが、ドコモならではの強みはどこにあるのでしょうか。
吉澤氏 他社は私どものフレーズをそのまま使っているのでは? 私どもはだいぶ前からやっていて、今では2800ぐらいがパートナーですし、R&Dを中心とした展示会などで、皆さんにご紹介しつつ、一緒にやる方を募っています。他社さんも同じような言い方をしていますけど、私どもが先んじてやっていますし、規模も大きいと思います。東京、大阪、沖縄、グアムでラボを作り、パートナーの方が実証実験をやっており、自分たちが考えているビジネスの可能性を検証してもらっています。
キャッシュレスはまだ始まったばかり
―― モバイル決済についても聞かせてください。「7pay」の不正利用が起きたことで、モバイル決済を不安視する人が増えそうです。そういった声に対してどう対応していきますか。
吉澤氏 キャッシュレスの世界を作るという意味では、セブンさんの事例がそのままキャッシュレスの動きを止めることにはならないと思っています。IDパスワードで決済するやり方は、どこでもやっています。われわれもいろいろな経験を積んだ上で、チェックリストを持っているわけです。
セキュリティも回線認証、2段階認証、生体認証もありますけど、それ以外にも利用限度額、決済の回数、時間帯、場所などを経験の中で持っています。今は(モバイル決済が)乱立気味だといわれていますけど、処理の仕方やプロトコル、サーバ決済などを共通化しないと、お店側も困るでしょうし、バーコードもお店ごとに違うと混乱します。共通化を図る上でだんだん統合されていくのではと思います。今の段階は、まだキャッシュレスのスタート地点だと思っています。
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