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“キャリア端末”のセット販売を仕掛けるイオンモバイル SIMロック禁止で変わる端末販売の在り方石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)

イオンモバイルが10月から料金プランの値下げをするが、それ以上に衝撃的だったのが、端末販売の新戦術だ。イオンリテールは、大手キャリア3社の販売するスマートフォンと、イオンモバイルのSIMカードをセットで販売していく方針。同様の方法で販売を行うMVNOが増えてくると、キャリアとメーカーの在り方に与えるインパクトも大きくなる。

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 イオンリテールは、10月1日にイオンモバイルの新料金プランを220円(税込み、以下同)値下げすることを発表した。同社に回線を提供するMVNEが、ドコモとの契約を「音声接続」と呼ばれるオートプレフィックス機能に切り替えることに伴い、仕入れ価格が下がるためだ。イオンモバイルはドコモとauの2回線から大本のキャリアを選択できるが、au回線側もドコモ回線に合わせる形で値下げを行うという。

イオンモバイル
10月1日に料金の再値下げを行うイオンモバイル(写真提供:イオンリテール)

 一方で、値下げ以上にインパクトが大きかったのが、端末販売の新戦術だ。同社は大手キャリア3社の販売するスマートフォンと、イオンモバイルのSIMカードをセットで販売していく方針。イオンはMVNOを展開するのと同時に、大手3キャリアの代理店でもあるため、キャリアモデルを仕入れることが可能。イオンモバイルがこうした販売施策に踏み切る背景には、10月1日に義務化されるSIMロックの禁止がある。

 キャリアモデルのセット販売は、イオンモバイルにとっての武器になるのはもちろんだが、同様の方法で販売を行うMVNOが増えてくると、キャリアとメーカーの在り方に与えるインパクトも大きくなる。現時点では少数にとどまっている端末の単体販売が主流になれば、キャリアモデルの存在意義も見直す可能性がある。その影響を考察した。

キャリア端末のセット販売に踏み切るイオンモバイル、背景はSIMロックの禁止

 イオンモバイルは、10月1日に現行の料金プランを一律で220円値下げする。一例を挙げると現在1298円の3GB音声プランは値下げ後に1078円になる。家族とデータ容量を分け合う「シェア音声プラン」も220円値下げの対象になり、お得感はさらに高まる。だが、それ以上にインパクトが大きかったのは、キャリア端末とイオンモバイルの回線をセットで販売する方針を示したことだ。

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10月1日から、料金を一律220円引き下げる。音声通話料もオートプレフィックスを使い、30秒22円から30秒11円と半額になる
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MVNEからの仕入れコストが下がった分を、ユーザーに還元する方針だ

 イオンリテールでイオンモバイルの事業を推進する、住居余暇本部 イオンモバイルユニット イオンモバイル商品マネージャーの井原龍二氏によると、「イオンは代理店としてキャリア端末の販売を行っているため、キャリアのスマートフォンとイオンモバイルをセットで販売できる」という。これは、今までMVNOでの取り扱いが少なかったiPhoneやGalaxy、Xperiaといったブランドの端末を、フルラインアップで販売できるようになることを意味する。

 MVNOの多くはSIMロックフリーモデルと自社の回線をセットで販売していたが、上記で挙げたようなメジャーなブランドの端末は限定的だ。Xperiaのように、一部のミドルレンジモデルをMVNO経由で販売したり、別ルートで仕入れた未開封品のiPhoneを販売したりする例はあるが、大手キャリアのようなより取り見取りのラインアップだったとは言いがたい。キャリアモデルをMVNOの回線と一緒に販売できるようになれば、裏技的な調達をする必要がなくなるというわけだ。

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自社回線とキャリアモデルのセット販売を推進する方針。取り扱うスマートフォンのブランドが大幅に広がる

 もっとも、現時点でも、キャリア端末とMVNOの回線をセットで販売することはできる。これは、分離プランの導入に伴い、キャリアが端末の単体販売をしなければならないことが義務付けられているからだ。契約に伴う割引がつかない、キャリアの用意している保証サービスに入れないなどの制約はあるものの、原則として、端末のみを購入することは可能だ。ワンストップで端末の購入から契約までできないのが難点だが、イオンモバイルの取り組みはこうした不便さを解消するものだ。

 制度が周知されていなかったり、代理店に利益が出なかったりすることもあり、単体販売を拒否する事例も見受けられた。総務省が2020年12月から2021年2月の間に実施した覆面調査では、こうした実態が明らかになっている。一方で、状況は徐々に改善されているようだ。井原氏によると、キャリアが代理店に支払う手数料の体系が実態に合わせて変わってきているため、今では「端末販売のみでもしっかり収益が取れる手数料を、各キャリアが出すようになってきている」という。

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総務省が実施した覆面調査では、端末の単体販売を拒否する実態が明かされた。5月には消費者庁から行政指導が出たこともあり、状況は徐々に改善されているという

 では、なぜイオンモバイルはキャリア端末とのセット販売を強化するのか。背景には、10月1日から施行されるガイドラインがある。総務省は、8月10日にSIMロックの原則禁止を盛り込んだガイドラインを公開。10月1日から、一部の例外になる端末を除き、キャリアの取り扱う端末は全てSIMロックフリーになる。現時点でも、既にガイドラインを先取りする動きがあり、ソフトバンクは「Leitz Phone 1」をSIMロックフリーで販売。auやUQ mobileが販売するXiaomiの「Redmi Note 10 JE」も、SIMロックフリーで発売されるという。

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「Leitz Phone 1」は、ガイドラインを先取りしてSIMロックフリーで販売されている

 SIMロックを解除するのと、もともとSIMロックフリーで販売するのは、近いようで大きな違いがある。現状でも、購入直後にSIMロックを解除できるケースはあるが、キャリアごとに状況はまちまちだ。例えば、ドコモは端末を一括で購入した場合や、割賦払いで支払い方法をクレジットカードに設定している場合のみ、SIMロックフリーになった状態の端末を受け取れる。ソフトバンクは、SIMロック解除対応製品は5月12日以降、全てSIMロックフリーの状態でユーザーに渡している。これに対し、KDDIは解除条件を満たしていても、自身でSIMロックを解除しなければならない。

 ソフトバンクは現状でも、ガイドラインをある種先取りしている格好だが、他2社は何らかの制約がある。そのため、MVNOや販売店が他社回線とのセット販売まで踏み込むのが難しい。これに対し、もともとSIMロックフリーで販売されているのであれば、現状のSIMロックフリーモデルとほぼ同じように、回線をセットにして販売するだけで済んでしまう。イオンモバイルが計画しているような、キャリアモデルとSIMロックフリー回線のセット販売が格段にしやすくなるといえそうだ。

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