「SIMロック」は悪なのか?――その歴史を振り返る:IIJmio meeting 14(1/2 ページ)
IIJが開催したファンミーティング「IIJmio meeting」で、SIMロックの歴史と現状を振り返った。SIMロックは悪なのか? 必要なものなのか?
インターネットイニシアティブ(IIJ)は、1月28日に東京でファンミーティング「IIJmio meeting 14」を開催。そこで、スマホのSIMロックについて、その成り立ちと現状についてを解説し、IIJの考え方を述べた。
SIMロックの歴史を振り返る
IIJ ネットワーク本部 技術企画室の佐々木太志氏は、「SIMロックについて」と題し、携帯電話のSIMロックが問題になっていなかった過去から、モバイルビジネス研究会で問題として取り上げられた背景、現状を説明した。
携帯電話サービスが始まって1994年3月まで、携帯電話はキャリアから借りるもので、そのキャリアでの利用しか想定されていなかった。ロックされているのは当たり前で、キャリアを変えるなら端末は返却し、新しいキャリアで端末を借りて利用するものだった。
1994年4月に携帯電話の販売が解禁されたが、基本的にはキャリアが端末を販売する時代がしばらく続く。SIMはまだなく、契約情報はケータイショップで専用の機械を使い、端末に直接書き込んでいた。他社の携帯電話を持っていっても、現在のような技術基準が決まっていなかったので、ほとんどのケースで契約情報の書き込みはできなかった。
日本でSIMが導入されたのは、2000年にドコモがFOMAを開始したときだ。ここから契約情報はSIMに書き込まれることになった。SIMはユーザーでも抜き差しでき、このとき初めて「他社のケータイにSIMを差したらどうなるか」が注目され始める。
「SIMロックは囲い込みにつながるので悪」とよく言われるが、これは「後でできた理由」だと佐々木氏は分析する。SIMを差し替えることができるようになっても、各社のデータ通信サービスはiモード、EZWeb、J-スカイなど、規格がまったく違った。当時はサービスと端末が一体開発されていた時代で、SIMロックはサービスを提供するために必要なものだった。また、当時はSIMだけ契約することがありえない時代で、顧客流出もありえない。
2007年からSIMロックが問題視されるように
SIMロックが問題視されるようになったのは、2007年の総務省の有識者会議であるモバイルビジネス研究会だと佐々木氏は振り返る。報告書に「SIMロック解除の推進」という言葉が盛り込まれ、端末ビジネスはオープン型を目指すべきだという考えが出てきた。さまざまな人たちが携帯電話のサービスを作っていくにあたって、端末のSIMロックがそれを阻害するという考えだ。
ただ、すぐにSIMロック禁止とはならなかった。当時、ドコモ、ソフトバンク、イー・モバイルが採用しているW-CDMAと、auが採用しているCDMA2000規格があり、SIMロックを解除しても、通信規格に互換性がないために端末が動かない。また、同じW-CDAMを採用していても、事業者ごとのプラットフォームに互換性がなく、SIMロックを解除して端末を別キャリアに持ち込んでもサービスが十分使えない状態だったからだ。周波数や無線制御技術の違いで、通信ができず、ハンドオーバーに失敗することもあった。
「今すぐSIMロックを解除しても、誰の利益にもならないというコンセンサス」だったが、端末代金をユーザーが払い終わった後にもSIMロックがかかっていることは正当ではない、という考えを当時の総務省は示していて、佐々木氏はその点を評価。なお、通信方式やプラットフォームの互換性の問題は、LTEの開始に伴って解消されるという判断だった。
これらの報告書をもとに2010年、SIMロック解除ガイドラインが生まれた。報告書には法制化という表現があったものの、事業者へのヒアリング等を考慮して「ガイドライン」という努力目標にとどまった。LTEが普及して互換性の問題が解決すると思われたが、2010年にLTEを開始したのはドコモだけで、問題解消には至らなかった。努力目標だったので効果はさほど上がらず、ドコモはiPhone以外は原則SIMロック解除に応じたものの、ソフトバンクは数機種程度、KDDIはまったく応じなかった。
SIMロックガイドラインは改定が2度あり、1回目は2014年12月。この改定で強制力を持ったものに切り替わった。2回目の改定は2017年1月だ。端末を一括で購入すればすぐにロック解除が可能になり、分割で購入した場合は100日程度たてばロック解除が可能になる。同じネットワークを利用するMVNOに対するSIMロックはしてはならないことになった。
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