意外な組み合わせ? ミクシィがローカル5Gの商用サービスを始める理由:5Gビジネスの神髄に迫る(2/2 ページ)
ローカル5Gが実証実験にとどまるケースが多い中、商用環境での利活用を始めたのがミクシィだ。同社は、競輪場のTIPSTAR DOME CHIBAで実施されるPIST6 Championshipの映像を伝送し、それを会場内やTIPSTARのアプリ内で配信する映像の制作に、ローカル5Gを活用する。特殊な環境ゆえ、レース用車両に搭載する端末は自作した。
自転車に搭載する端末を“自作”
一方で苦労したのは端末の調達だったという。同社のローカル5GネットワークはSub-6の帯域を用いたSA(スタンドアロン)での運用となるが、日本で購入できる端末は携帯電話会社のNSA(ノンスタンドアロン)運用のネットワークに接続することを前提としたものが多く、実際に接続できるかが担保できるわけではないことから、「買ってつないでみるところからスタートしなければいけない」ことが課題になっていた。
そこで吉野氏が選んだ手段は、ローカル5Gでの実績が豊富なベンダーのチップを購入すること。ローカル5Gのテストなどで多く用いられている台湾のCompal Electronics製のチップを2021年秋頃から調達したそうで、実際に調達できたのは2022年に入ってからだったそうだが、その調達数は102に上るという。
現在、実環境で使用しているのは可搬型定点カメラに用いている2台のみだが、なぜそれだけの数が必要だったのか。今後端末側のバージョンアップを進めていく予定であり、「競技で使っているものは壊せない」(吉野氏)ことから、在庫を用いてバージョンアップ版を制作し、それを運用中のものと置き換えていくため数を多く用意する必要があっからだという。
そしてもう1つの理由はレース用車両に搭載する端末のためだ。ローカル5Gを用いたシステムではまだ車両に車載カメラ端末を搭載しての映像伝送はしていないが、その理由はローカル5Gに対応し、なおかつ車両に搭載できるサイズと性能を両立した製品がないため。5Gは4Gと比べ端末の小型化が進んでいないことから、既製品でマッチするものが存在しないのだそうだ。実際SXGPに対応した車載カメラ端末は車両のハンドルの下に付けられているが、高さが6cmを超えるとタイヤに当たってしまうことから、端末は6cmを切る必要があるのだという。
そこで同社が選んだのが、端末を“自作”するという手段である。自社で必要なパーツを買いそろえて社内で論理設計をし、その上で実際に端末製造を委託する会社と相談しながら開発を進めているそうで、実際に選手に試してもらう端末は2022年の春頃に用意できる予定だという。同社のニーズに沿った端末を、金型から起こして大量量産するにはとても金額に見合わないことから、部品を調達して自ら端末そのものを作るに至ったそうだ。
ただ車両はレース中に200mのトラックを10秒程度で走行するなど、非常に速度が速いことから、ローカル5Gの電波を用いて問題なく映像伝送できるかという点は非常に気になるところだ。吉野氏によると、まだ端末の用意ができていないことから、実際に端末を車両に搭載してのテストはしていないそうだが、現在のシステムでもSXGPに加え、ローカル5Gの周波数に近いWi-Fiの5GHz帯を活用していることから、電波特性は大きく変わらないと同社では見ているようだ。
では今後、他のスポーツ競技の施設にローカル5Gを活用した取り組みを進める考えはないのだろうか。特に千葉ジェッツふなばしに関しては、2024年春に開業予定のホームアリーナ「(仮称)LaLa arena TOKYO-BAY」が開業予定であることから、そちらを活用した取り組みも期待されるが、現時点で具体的な取り組みがあるわけではないとのこと。ただ、同社内にはそれぞれのチームで業務を担っている人もいることから、社内でニーズが出てくれば対応を進めることになるようだ。
もっとも吉野氏は、「(ネットワークを)全部5Gにしたいというのではない。低遅延とはいえ光には勝てない」とも話している。可能な限りネットワークは光回線を軸に整備し、どうしても無線でなければいけない場所だけに5Gを用いていくというのが同社の方針であり、必ずしも5Gの活用にこだわっているわけではないようだ。
取材を終えて:フレキシブルな対応がスピード感を生む
ローカル5Gの具体的な活用事例が増えない中にあって、数カ月のうちにローカル5G環境を構築して商用環境での利用開始にこぎつけたミクシィのスピード感にはやはり驚かされる。5Gでは比較的取り組みやすい映像伝送での活用ということもあるが、無線部分をプロに任せつつ、必要に応じて端末を自作するなど、専門の事業者ではないからこそのフレキシブルな対応が生きていると取材を通じて感じた。
もちろん現状のシステムでは定点カメラでの映像伝送にとどまっており、本命ともいえる車両への端末搭載を実現していないことから、今後も継続的な取り組みが求められるところではある。だが、ローカル5Gの実証実験レベルを超えた取り組みが出てきたことは、今後のユースケース開拓や具体的な導入を推し進める上で、大きな意味があるといえそうだ。
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