総務省の施策で本当に“乗り換え”は進むのか? MVNO復活に必要なこと(前編):モバイルフォーラム2022(3/3 ページ)
テレコムサービス協会 MVNO委員会は3月18日、「モバイルフォーラム2022」をオンラインで開催した。テーマは「リベンジ・今こそMVNOに乗り換える〜GoTo MVNO2.0〜」。パネルディスカッションは、「激動が続くモバイル市場 MVNOが復活を果たすために必要なことは?」と題し、大手キャリアの動きや総務省の施策を議論した。
eSIMが使えても皆ハッピーになるわけではない
eSIMは、2021年夏頃から導入が進んでいる。大手キャリアのメインブランドとサブブランド、オンラインブランド全てでeSIMを導入。ドコモの一部ケースを除き、基本的に全キャリアでeSIMが使えるようになっている。
ただ、端末にeSIMを設定する手続きでQRコードを表示する端末が必要なこと、ある程度のリテラシーの高さが求められること、eSIMの再発行にハードルがあること、キャリアによって手順が異なることなどが課題として挙がっている。
石川氏は自身がeSIMの再発行で苦労した経験があり、「このリテラシーを一般ユーザーまで求めるのは無理なのでは。eSIMを導入すれば、乗り換えが進んでハッピーだという語り口は違うのではないか」との考え。
「端末の対応周波数の問題もそうだが、eSIMにしても、総務省はiPhoneをおすすめ端末として訴求すべきではないか。iPhoneが一番乗り換えやすい端末、iPhoneを買っておけば安心という状況になっている。総務省のやっていることは結局Appleに有利になっていて、ちぐはぐな感じになっている」(石川氏)
総務省にAppleを優遇しようという意図は決してないだろうが、総務省の施策がiPhoneの素晴らしさを逆に際立たせることになっているというのだ。これには他のパネリストからも失笑が漏れた。
ところで、eSIMはMVNOへの開放も進みつつあり、IIJはフルMVNOという枠組みを使ってeSIMを提供している。島上氏は「MVNOとしては、便利なものが使えるようになることが第1。MNOから機能が提供されないことには、やりたくてもできないので、提供されたこと自体は非常に歓迎」と語った。
一方で、eSIMを使いこなせる人はまだ一部で、「手続きも含め、使いやすい形にしていく必要がある」と島上氏は指摘した。ただし、キャリアやメーカーが全てをおぜん立てするのは無理で、「ユーザーの啓もうが必要」とも語った。
「ユーザーの方々にも知識をつけていただいて、『知らなかった』と後で言われない形にする、分かるようにしていくことが一番重要」(島上氏)
「MNP手数料無料化」で流動性がアップ
2021年4月からは、MNP転出手数料が無料になった。転出先のキャリアでのみで手続きするワンストップ化も検討されている。気軽にキャリアを乗り換えることが可能になった手数料無料化は、ユーザーにとって歓迎すべきことだが、総務省が狙っていた流動性は本当に上がったのか。
島上氏は、流動性は確かに上がっていると語った。また、北氏は「真水のMNP」と表現する、キャッシュバック目的ではない本来のMNP件数が着実に増えたとしている。一方で、MVNOの短期解約を抑制していた施策もなくしてしまったことで「(転出と転入を繰り返す)ホッピングのMNP」も増えていると指摘する。
「私はやりすぎたと思っているが、スイッチングコストがなくなったことで移りやすくなった。一方でホッパーも増えていて、またMVNOが踏み台にされている」(北氏)
島上氏もそうした動きは認識している。「不正とまで言っていいか分からないが、MVNOとして望まない短期の解約がまた増えている」と懸念していた。
このホッピングMNPについては、iPhoneが最近、「実質23円」「一括1円」など、非常に安く販売されていることと関係がありそうだ。このiPhone大幅割引についてはパネルディスカッションの後半で議論されており、別記事で紹介する。
「キャリアメール持ち運び」の効果はあるのか
2021年12月に、3キャリアがキャリアメール持ち運びサービスを一斉に開始した。北氏は「330円、500円ぐらいの利用料でコスト回収ができるのか」と懸念しているが、乗り換えの障壁が取り払われたので、ユーザーにとっては歓迎すべきことだ。しかし、実際にどれだけのユーザーが利用しているのかは不透明。決算発表会時に関連した質問が出ることもあるが、大手キャリアは「あまり影響はない」と回答している。
石野氏も北氏同様、コスト面を疑問視している。一方で、「インターネットプロバイダーの世界では、接続サービスをやめてもメールは残せるオプションがあるのが一般的。うまくやればビジネスチャンスになる」とも指摘した。また、メールサービスを持たないブランドへの移行を促すツールになっていることにも言及。
「例えば、ドコモからahamoに変える際に、ahamoにメールアドレスがない点が移行のハードルになっていた人たちを、ahamoに送り出しやすくなった。大手キャリアの案内を見ていると、サブブランドに気持ちよくユーザーを送り出すためのサービスになっているような感じ。ブランド変更にはMNPが不要になるなど、ブランドが料金プラン化してきていて、MVNOに移行しづらくなっている」(石野氏)
前の菅政権がメインブランドでの値下げにこだわり過ぎ、市場の活性化、流動性を高めるという本来の目的が達成できない状況になっていると指摘した。
石川氏はキャリアメールについて「置き換わるはずだった『+メッセージ』を真剣に普及させるべきだったのでは。3キャリアの努力が足りない」と苦言を呈した。その一方でキャリアのしたたかさにも舌を巻く。
「キャリアメール持ち運びは、dアカウントやau IDをベースにサービス提供されている。別キャリアに移ったとしても、元のキャリアの経済圏には縛られ続ける。ユーザーが新キャリアで『いまいちだな』と感じたら、そのアカウントを使って戻ることもできる。キャリアとひも付くアイテムをキャリアメールという形で、ID連携で残したという点は注視しておいた方がいい」(石川氏)
パネルディスカッションの後半では「MVNOの主なトピックから見える光明と課題」「MVNOに影響を及ぼすMNOの動き」の2テーマを議論した。これについては別記事でレポートする。
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