緊急通報のローミングは「早めに対応すべき」――NTT島田社長一問一答(2022年8月編)(2/2 ページ)
NTT(日本電信電話)が2022年度第1四半期決算を発表した。報道関係者向けの決算発表会では、KDDIと沖縄セルラー電話の通信障害に関する質問が相次いだ。主なやりとりを紹介する。
ローミングは「最低限」から議論を始めるべき
―― (総務省の議論では)緊急通報以外にもローミング対象を広げるかが議論になりそうですが、ソフトバンクの宮川(潤一)社長は「緊急通報以外も対象とするべきではないか」という旨の発言をしています。このことについて、考えを聞かせてください。
島田社長 先ほども少し言った通り、ある会社の輻輳が他の会社にも波及すると、さらに「重大な事故」になってしまいます。なので、仮に緊急通報以外も(ローミングの)対象に加えるのであれば、少なくとも輻輳を波及させないことが前提となります。「SMS(ショートメッセージ)みたいなものを流す」といった手もあるかと思います。
ただ、「それを相互にどういう仕組みでやるのか?」といったコンセンサスは形成しないといけませんから、総務省の会合などで議論を深められればと思っています。
―― 先ほど緊急通報時のローミングについて「時間をあまり掛けないでやることが大事だ」とおっしゃっていましたが、時間をあまり掛けないでできることとは何なのでしょうか。
島田社長 シンプルにいえば緊急通報時に呼び返し機能を持たないということです。ただ、どこまでやるのかは(事業者や総務省との間で)コンセンサスを得られるまで議論すべきことで「それだけ(緊急通報だけ)やればいい」という訳でもありません。
いろいろ拡張するとネットワークの改修などにコストが掛かることは確かで、(検討すべきことが)広がれば広がるほど議論に時間も掛かってしまいます。まずは、“最低限”の議論から始めるべきだと思います。
―― 仮に呼び返し発信機能なしで緊急通報ローミングの場合、ネットワークの改修がどのくらい必要なものなのでしょうか。先ほど来の話を聞いていると、比較的すぐにできそうなイメージを抱いてしまうのですが。
島田社長 現状では(ローミングを前提とした)ネットワーク構成ではないので、改修は必要です。今日明日でできる話ではなく、ある程度の期間が必要です。
―― 「呼び返しを備えるよりは早く実現できる」という理解で良いですか。
島田社長 そうです。呼び返しに対応するには膨大なデータベースの整備が必要となるので、すぐにできるものではないということです。
Androidスマホでは、SIMカードを抜くと「緊急通報のみ」と表示されるが、日本では法令の都合でSIMカードを抜いた状態での緊急通報(110/118/119番への発信)は行えない。NTTの島田社長は、まずSIMカード抜きでの緊急通報から議論をすべきだという立場である
公衆Wi-Fiサービスや公衆電話の活用はどうか?
―― 通信障害への対応にはいろいろな方法があると考えられますが、「公衆Wi-Fi(無線LAN)を活用してはどうか?」という意見もあったかと思います。携帯キャリアの公衆Wi-Fiサービスでは災害時に「00000JAPAN」というSSIDでアクセスポイントを無料開放していると思いますが、(通信障害時も)それと似た取り組みを検討されてはいないのでしょうか。
島田社長 具体的に議論が始まったわけではありませんが、「災害時の『特設公衆電話』を活用したらどうか?」という意見もあります。(00000JAPANを含めて)従来、災害対策として講じてきた施策を通信障害時にも応用できるかということを含めて各社と議論していきたいと考えています。
もちろん、そういう場合にはコストも生じますから、負担する仕組みも一緒に考える必要があると思います。
―― 公衆電話について、今年の春に設置基準が見なされました(参考記事)。これに伴い、NTT東日本(東日本電信電話)やNTT西日本(西日本電信電話)が公衆電話の削減計画を公表しています。今回の通信障害を踏まえて、削減計画の見直しなどはされるのでしょうか。
島田社長 公衆電話については、今ある公衆電話(第一種/第二種公衆電話)というよりも、コンビニエンスストアの前に並べるような特設公衆電話の方が(電話の台数が)多くなりますし、お客さまの立場としても使いやすいだろうと考えています。
通信事業者が互いにMVNOになって提供するサービスも考えられる
―― KDDIの通信障害によって、足元の個人、あるいは法人向けのモバイル通信契約数の影響は出ているのでしょうか。
島田社長 法人のお客さまにおける話ですが、バックアップ(回線)をどうするのかという議論は始まっているという認識です。例えばドコモだけをお使いのお客さまが「他社の回線でバックアップした方がいいのではないか?」という話もあるんですよね。
ここでネットワーク事業者はどのような提案をするのかが重要だと思います。例えば(別事業者の)SIMカードをダブルで入れておくこともあり得るでしょうし、事業者(※3)が互いのMVNOになることも考えられます。いろいろな方策を考えながら、お客さまの事業の継続性をどのように確保するのかが重要です。
法人のお客さまの中には、既に通信回線やサービスにバックアップを用意しているケースもあります。例えば「NTTコミュニケーションズの回線をメインで使って、バックアップとしてKDDIの回線も契約する」といった組み合わせは、既にビジネスとして存在するわけです。その延長線上で考えれば、モバイル通信でも、法人向けに同じようなサービスを提供することはあり得ると思います。
(※3)筆者注:文脈的に、ここでいう「事業者」は自ら無線通信設備を持つMNOのことを指すと思われる
―― 個人向けには同種のサービスは考えられないのでしょうか。
島田社長 基本的にはスマホの「2台持ち」になるんじゃないかと思います。1台の端末に2枚のSIMを入れて、何かあったら切り替えて使うという方法も、今でもやろうと思えば(デュアルSIM端末を持っていれば)できます。
海外では、NTTグループの企業が1枚のSIMカードで複数のモバイルキャリアを選べるサービスを提供しています。ただ、コストはかかるので選ばれるかどうかという問題もあります。
KDDIの「おわび」について
―― 今回の障害を受けて、KDDIは(約款によらない)一律200円の返金を行うことにしました(※4)。これについて、どう思いますか。
(※4)povo2.0の契約者にはデータ通信用クーポンを配布
島田社長 KDDIの補償についてはコメントは控えたいと思います。基本は約款に基づいて(返金を)行うことが原則だと思います。障害の大きさや社会的影響などを考えて、状況に応じて決めていくことになるかと考えます。
他社の動向に関する質問も
―― 楽天モバイルが月額0円からの料金プランを廃止しました。その受け止めと、ドコモへの影響があれば教えてください。
島田社長 ネットワーク(通信)ビジネスは、どうしても(固定)コストが掛かりますから、楽天モバイルが0円をやめたのは当然の行動だと思います。
このことが直接影響したのかは分かりませんが、ドコモのMNPは、この四半期ではプラス(転入超過)となっています。楽天モバイルの影響なのか、ドコモの営業チームが頑張った結果なのかは精査が必要だとは考えていますが、コメントはなかなか難しい所です。
―― ahamoの調子はいかがですか。
島田社長 おかげさまで順調です。
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