予備回線向け「デュアルSIM」に残された2つの課題 楽天モバイルとMVNOはどう救済する?:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
KDDIとソフトバンクが、他社ネットワークを予備回線として利用するサービスを3月下旬以降に導入する。この枠組みには、ドコモも参加することになるようだ。一方で、楽天モバイルやMVNOは、相互バックアップの枠外のまま。こうしたキャリアのユーザーをどう救済していくかは、確定していない。
電話の扱いに難あり デュアルSIMで同一番号の運用は可能なのか
“転ばぬ先のつえ”として便利そうなサービスだが、難点は電話の扱いにある。デュアルSIMでサービスを提供するシンプルな形を取っているため、サービスを契約すると、もう1つの電話番号が割り当てられる形になる。そのため、非常時に切り替えて電話をかけると、着信側には普段と異なる電話番号が表示されてしまう。発信の場合は相手がどう出るかどうか次第だが、その電話番号が知られていないと相手は電話をかけることすらできない。このサービスを利用する場合、よく電話をかける相手には、あらかじめ2番号とも告知しておいた方がいいだろう。
こうした課題は、キャリア側も認識しており、宮川氏も「本当に災害が起こったとき、かかってきた電話が全然知らない番号だと、取ってもらえないのではないかと危惧している」と語っている。宮川氏は、iPhoneとApple Watchで同一番号を使うサービスを挙げ、「テクノロジー的には不可能ではない」としながら実現への期待感をのぞかせた。ただ、制度的に、電話番号は各キャリアに割り当てられているため、同一キャリアが提供するiPhoneとApple Watchの仕組みをそのまま2社にまたがるサービスに適用するのは難しいだろう。
また、デュアルSIMで同一番号の運用を許してしまうと、1台の端末に同じ電話番号が2つに割り当てられてしまうことになる。普段の電話番号に電話がかかってきただけで、両方の回線が同時に着信してしまうというわけだ。Apple Watchのサービスも、実際には別の電話番号が割り当てられ、ネットワーク側でiPhoneの電話番号とひも付けているだけだが、同時着信が許容されるのは、端末が分かれているからにほかならない。宮川氏の言うように不可能ではなさそうだが、ハードルは非常に高い可能性がある。
もう1つの課題は、この枠組みに参加していないキャリアやMVNOをどう救済するかが棚上げになっている点だ。例えば、自身で設備を持つMNOでは、楽天モバイルの名前が挙がっていない。高橋氏は、その理由を次のように語る。
「今の時点で楽天モバイルには声がけはしていない。われわれがローミングを提供しているので、KDDIのネットワークがおかしくなったら楽天のエリアもダメになってしまう。エリアの関係から難しいと思い、お声がけはしていない」
NTTの島田氏も、「KDDIやソフトバンクと話をしている」としつつも、「3社の中で整理をすることにフォーカスし、スペックを合わせていかなければいけない」と語る。現時点ではユーザー数も大手3社に比べると少ないため、影響の範囲は狭いが、楽天モバイルも2022年には通信障害を起こしている。競争領域と協調領域を分け、後者として予備回線のサービスを提供するのであれば、やはりここには楽天モバイルも入っていた方がいいだろう。
また、島田氏は「MVNOとどうコラボしていくかは、次のフェーズ」と語る。こうした状況に対し、IIJの代表取締役社長、勝栄二郎氏も「一般論として申し上げると、災害時などにはこういうサービスがあった方がいい」としつつも、「自社の利益ではなく、われわれMVNOにもぜひ開放していただきたい」とくぎを刺す。1社1社のユーザー数は少ないMVNOだが、いわゆる格安SIMの契約者総数だけでも1000万を超えており、規模としては無視できない。予備回線に近いサービスを提供してきたMVNOもあるだけに、競争環境をゆがめてしまうおそれがある点は念頭に置いておきたい。
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