衛星通信サービス「au Starlink Direct」の戦略を解説 なぜau限定? 有料化の可能性は?:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
KDDI松田浩路氏の社長就任会見に合わせて、衛星との直接通信サービス「au Starlink Direct」を発表。KDDIは米SpaceXと提携し、基地局のバックホールに活用するとともに、法人、自治体にStarlink端末を販売してきた経緯がある。対応機種は50機種に及び、GoogleのGeminiも活用してデータ通信の制約を補っていく。
KDDIで取締役執行役員常務CDO(Chief Digital Officer)を務めてきた松田浩路氏が、4月1日に代表取締役社長CEOに就任した。10日には社長就任会見を開催し、松田体制の方針が語られた。合わせて、同氏の掲げたチャレンジを象徴するサービスの1つとして、「au Starlink Direct」が発表され、同日から利用が可能になった。
au Starlink Directとは、低軌道衛星(LEO)から発射された電波を直接スマートフォンで受けられるサービス。一般的には、D2C(Direct to Cell)や衛星とスマホの直接通信などと呼ばれるものだ。KDDIは米SpaceXと提携し、基地局のバックホールに活用するとともに、法人、自治体にStarlink端末を販売してきた経緯がある。それをスマホに応用したのが、au Starlink Directだ。このサービスの詳細やKDDIの狙いを読み解いていく。
ついに始まったStarlinkとのダイレクト通信、対応機種は50種類以上に
社長就任会見のサプライズとして発表されたのが、春の開始を表明していた衛星とスマホの直接通信サービスだ。衛星には、SpaceXのStarlinkを活用。サービス名は、au Starlink Directと銘打った。料金は当面の間無料で、対応端末を持っているユーザーは10日から利用が可能になっている。iPhoneの場合、対象端末でキャリアプロファイルのアップデートを適用し、設定で「衛星通信」がオンになっていれば、4Gや5Gの電波が入らないときに衛星との通信に自動で切り替わる。
Androidは、対象機種を最新のOSにアップデートした上で、メッセージアプリの「Googleメッセージ」を最新の状態にし、デフォルトSMSアプリに設定することで利用が可能になる。Androidでは、プラットフォームでも、データローミングは有効にしておく必要がある。まずは、SMSやRCSといったメッセージの送受信に対応。文字だけでなく、RCSを使った位置情報の共有やGoogleメッセージを介したGeminiとのチャットにより、生成AIも衛星経由で活用できるようになった。
現状、携帯電話のネットワークは人が常時いる場所を中心に構築されており、山間部や海上などでは利用できないことが多い。そのため、国土カバー率は6割程度にとどまっていた。一方で、こうした場所でも、登山や航海などの際に利用したいというニーズは存在する。au Starlink Directを導入したことで、「空が見えればどこでもつながる」(松田氏)ようになり、他社に先駆け、残り4割のエリアをカバーした格好だ。
低軌道といっても、その高度は地上約340km。Starlink端末と通信するために高度550kmを飛ぶ通常の衛星よりも低いが、地上に設置された一般的な基地局とスマホの距離よりははるかに遠い。衛星からは出力を上げれば電波が届くが、送信側はコンパクトなスマホから電波を出さなければならない。また、スループットも十分出ないため、スマホ上で動作できるアプリケーションも限定する必要がある。OSアップデートやキャリアプロファイルのアップデートがかかるのは、そのためだ。
au Starlink Directでは2GHz帯の周波数を活用しているが、事業者識別コード(PLMN)は専用のものが割り当てられている。最新OS、プロファイルには、これを認識して自動でつかめるようになるアップデートも含まれているという。サービス開始にあたり、端末メーカーがアップデートを適用。サムスン電子、ソニー、Appleを中心に、ここ数年のモデルが一挙に対応し、その数は50機種、600万台にも及んだ。
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