日本人はなぜオタクとなり得たか(3/3 ページ)
筆者が考えるそれ以外の条件とは、ある程度の経済的な余裕、そして安定した物流システム、および情報ネットワークである。カネ、モノ、情報という条件を、日本では比較的早期にクリアすることができた。
少子化と夫婦共働きというのは、日本では珍しくない傾向だ。共働きをする理由はいろいろあるだろうが、やはり他国に類を見ない地代家賃の高さが理由になるだろう。本来ならば母親や祖父祖母、年長の兄姉に囲まれて成長するはずが、核家族化+少子化のために、いち早く一人で生活することを強いられる。
親は子供に手がかけられない分、自分の判断で行動できるよう、お金を持たせる。そして親は、子供がそこそこいい成績を取っていい学校に行けば、生活面には干渉しないという学歴主義も、そこに拍車を掛ける。
少なくともオタクは、ある程度の能力がなくてはできない。膨大な情報を吸収し、人並み外れた根気でそれを整理、発信する。発信は自己顕示欲につながり、オタクの成長サイクルが回転し始めるわけである。
理想的なオタクは、学生時代には親のメリットを最大限に生かし、社会人になっても経済的に苦労しない人生を歩む。筆者の知る限り、オタクでありながら社会人として生活している人は、オタクそのものを職業にしている人は別として、たいてい大手企業の研究員や開発などの重要な、だがどちらかといえば裏方の専門職であるケースが少なくない。
ツボにはまれば、バツグンの集中力を武器に難題をクリアするタイプである。オタク的な人材は、使いどころを間違わなければ、企業にとっては大きな戦力だ。したがって給料も悪くない。さらに独身というところにも、ポイントがある。自分の行動に干渉する人が居なければ、思う存分時間とお金を使うことができる。
このような、親からは勉強のことで文句を言われたことがなく、社会的には多少変人であるものの仕事はできるというタイプの人が、立派なオタクとなって日本の産業とカルチャーを支えていくのである。
オタクの果てにあるもの
最近の日本では、次第に断定的な言い方を避けるようになってきている。アドバイスするにしても、「~したほうがいいよ」ではなく、「~したほうがいいかもー」と婉曲的な表現を用いる。
年配の方からみれば、なんと回りくどいことよと思われることだろう。だがこのような仮定表現を用いてしゃべるのは、一つは責任の所在を明らかにしないという処世術的要素であるという側面のほか、もう一つはそれらの世代なりの、相手の意志を尊重する言い方なのである。
今、われわれの世代間では、平均的であったり常識的であったりといった、他人と共有できる部分が非常に少なくなってきているのを感じる。特に何かの能力や才能がある人間ほど、その逸脱のブレ幅が大きい。
ちょっとした意見の相違でも、相手がキレまくったりヘコみまくったりする可能性があるという、非常にやっかいな時代となった。まったく自分の価値観とは違うところにこだわっている人間と、うまく付きあいながら社会を回していかなければならないのである。
その場合に、相手のこだわっているデリケートな価値観へ探りを入れつつ、自分の意志を伝えようとするならば、「仮定的提案型」という奇妙な言い方にならざるを得ない。もはや謙譲語、尊敬語、丁寧語だけでは、微妙な機微のバリエーションが足りなくなってきているのかもしれない。
もともとネオテニー化した社会は、人間は成熟するまでに長い時間を要する。本来はもっと家庭内で長い時間をかけて教育していかなければ、大人にならないのである。だが戦後の日本では、教育や家庭環境、社会のあり方まで欧米に習ってしまったために、未成熟な状態の人間が大学卒業を境に、社会に送り込まれるようになった。子供の精神のままで経済力を身につけた者が、オタクの本質であるとも考えられる。
オタクを卒業する時は、精神的に大人の域にまで成長した時である。しかしそれにかかかる時間を圧縮することは、難しい。むしろオタクはオタクのままで、その能力とエネルギーを社会の発展のために利用していく方法論が必要となる。
さらに今後の課題として、経済的に余裕がありながらやりたいことが見つからないので働かないニートと、同じ条件でありながらやりたいこと、知りたいことがありすぎるオタクとの分岐点はどこなのか、社会学的にちゃんと洗い直すべきだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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