DVDレビュー
れこめんどDVD「監督・ばんざい!」(2/2 ページ)
日本映画、そして日本映画界に物申す
キタノ監督が挑戦するジャンル映画の数々は、観ている方が恥ずかしくなるほどベタである。いや、ベタでは足りない。もうベタベタだ。だけど、そんなベタな映画ばっかりなんだよ、今の日本映画は。北野武は観客と映画界それぞれに問いかける。観客には、「予定調和なベタ映画を観て、本当に面白い?」。映画界には、「予定調和なベタ映画を作って、本当に面白い?」と。
ここまでだったらメタ構造の映画批判映画なので、映画好きなんかにはたまらないものがあります。ブラボー!監督!最高です!と。しかし後半、追いつめられたキタノは渾身の1作に取りかかる。それがまた、前半の没映画の群れを超えるアホアホな映画なのだから、映画好きもブラボーの声を引っ込めること請け合いだ。
セコくてアホな詐欺師母娘は、政財界の大物の息子をたぶらかそうとするが、息子と勘違された大物の秘書(キタノ・タケシ監督が自ら演じている)は、貧乏な家の長男だった。母娘は逃げるが、娘に惚れてしまった純朴な秘書はどこまでも追いかける。井出らっきょこと、井出博士のロボットに乗って……。
と、あらすじを書くだけであきれ返る内容だ。だが、この後半部分の暴れっぷり、狂いっぷり、ギャグのベタっぷりの迷いのなさ。そして他者を批判するだけに終わらず、最初に掲げた“ジャンル映画に挑戦する”という自らへの課題を実践している点が、鬱期をくぐった北野武の強靭さを示している。
このアホさ加減に笑えるか!?
「監督・ばんざい!」では、「TAKESHI'S」から明らかに進化した北野武が見られるが、繰り出されるギャグのアホ度もMAXまで引っ張っているところがまた素晴らしい。服装からして常人ぎりぎりの岸本加世子と鈴木杏、笑えないギャグを嬉々として繰り出す江守徹、ここまでやりすぎる人も珍しい井出らっきょ。筆者的には、いかがわしさが芸になるハンサム・宝田明のパートが心に残りました。はたして観客がこれら役者陣のパフォーマンスに笑うかどうかは非常に難しいところだが、キタノ・タケシ(そして北野武)は、異様なテンションの高さをキープしたままラスト・シーンまで突っ走る。そして地球は壊滅してしまうのだ。
「TAKESHI'S」で自殺にも近い自らの死を描いているのに対し、本作で北野武は、自分もろとも世界を壊している。その世界とは、そう、映画だ。荒涼とした平原に、突如、巨大な文字「GLORY TO THE FILMMAKER!」(監督・ばんざい!)が立ち現われてきた瞬間、北野武の自己破壊の後の再生が始まったと、私は確信した。
同時収録の短編には監督の優しさが
と、いうようなことは特典の「北野武インタビュー」を観れば、言わずとも感じられます。やはり対面でカメラに向かう“殿”は迫力がある。また、07年のカンヌ国際映画祭60回記念企画「To Each His Own Cinema」で「世界の映画監督35人」に選ばれた北野武が「劇場」をテーマに撮り上げた短編「素晴らしき休日」(07)も収録されている。
田舎のさびれた映画館で、モロ師岡が「Kids Return キッズ・リターン」(96) を観るという、ただそれだけの光景だけれど、監督の優しい部分が出ています。映画界は嫌いでも、映画が嫌いなわけでは、決してないのだ。だって映写技師のおっさんは、よく見ると“殿”なのだから。「Kids Return キッズ・リターン」ファンにはこの短編だけでも観てほしい!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
2
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
3
GMO、不正アクセス実行犯の手がかりに懸賞金 1億5000万円規模
-
4
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
5
GMO、攻撃者の公開情報に「アクセスは絶対に控えて」 悪質な拡散者には法的措置を準備
-
6
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
7
IPO目論見書に「AIは人類の存亡リスク」「コードの9割はClaude製」 Anthropicが示した規格外の見立て
-
8
メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験
-
9
So-net、会員情報約259万件が漏えい 一部メールサービスではパスワードも流出
-
10
GMO不正アクセス、犯人側は「27日に顧客のPC攻撃」予告 GMOが端末回収、ホワイトハッカーが解析中
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR