小寺信良の現象試考
21世紀型フェアユース論(2/3 ページ)
どのように運用していくか
著作権法上、30条をはじめとする例外規定に当てはまらないコンテンツ利用は、原則的にすべて権利侵害である。そう考えるとほとんどの日本人は、過去一度も著作権侵害をせずに生きることができないぐらい、広範な網がかかっていることになる。
それが今まで社会的混乱を招くことなく済んでいたのは、著作権法が親告罪だからである。つまり権利を侵害された主体本人が侵害を訴えない限り、いくら著作権侵害の現場を見つけたからといって、第三者が訴えることはできない。窃盗罪とは違い、黙認がアリなのである。
しかし中には権利者側が権利侵害で訴えてはきたものの、一般常識として罪とするのはおかしいものが現れる。これまでの裁判では、確かに条文としては侵害だが、被害実態がなかったり、社会的に許容すべきものに関しては侵害を認めない例もあるにはあった。詳しい説明は省略するが、興味がある人は「市営バス車体絵の写真使用事件」などが参考になるだろう。
日本版フェアユースは、このような例外規定ではカバーしきれない微妙な問題を、個別の事情をかんがみて裁判で決着させる事ができる。つまりこれまで、オプトイン方式でしか事業が開始できなかったコンテンツビジネスを、Googleのようなオプトアウト方式に転換できるということなのである。
権利侵害であると訴え出るモチベーションの多くは、それによって他者が利益を得ているからである。オレのものでもうけているなら分け前をよこせ、というというわけだ。最近ではこの利益とは、現実のお金のことだけでなく、「便利になった」というところまで含まれ始めているように思う。デジタルによる複製では、個人利用であっても補償の必要があるという考えは、この傾向が強まっていることを表わしているのではないだろうか。
しかし日本版フェアユースでは、利益を得ているかどうかが侵害の基準にはならなくなるだろう。誰かのもうける権利、つまり現実には実益はなく、単にもうかるかもしれない、もうかったはず、というあいまいな可能性を侵害しているかどうかではなく、今存在する誰かの市場を侵害しているかどうかという、産業的視点を重視することになる。今まではそこの判断が、著作権法に欠けていたのである。
フェアユースの効果的な運用のためには、裁判官の再教育が必要となる。例えば「カラオケ法理」のように、もともと特殊な事情の判例が、どんどん別の事件にも応用されて拡大していくようなロジックは、これによってリセットされるべきだ。特にネットビジネスは、消費者の行為を自動化することで成立するケースが多い。サービスの提供者ばかりでなく開発者まで含めて侵害幇助(ほうじょ)の罪に問われる可能性があるのならば、エンジニアはだれもネットの技術を開発したがらなくなる。
その反面、実は裁判官が楽になるケースも多いだろう。過去の判例をかんがみて法的安定性・整合性を取ろうとあがくよりも、産業規模などはっきり数字として把握できるデータを元に、ケースバイケースで今もっともフェアと思われる判断が可能になる。つまり1つ1つの裁判に、立法的要素が加わることで、過去ではなく未来を見て判断することが出来るわけである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「Xが情報収集に役立たない……」熊本地震で不満の声続出 「Twitterを返して」
-
2
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
3
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
4
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
5
Z世代に聞く次の流行、「AIイラスト」が1位に 「Claude Code」も上位
-
6
東野圭吾さん死去、Xなどで追悼相次ぐ 「ガリレオ」など数々の人気作、エンジニアから転身
-
7
NVIDIAやMicrosoftなど30社超、オープンAIの防御ツール共同開発の「Open Secure AI Alliance」設立
-
8
「あ、その情報メモしたい!」を叶えるワイヤレスイヤフォン、Nothing「Ear (3a)」
-
9
はてな、11億円流出の調査報告書を公開 偽警察、口外禁止、残業・休出200時間超、孤立……ほころびが連鎖
-
10
有識者はGoogleやX、Meta、ドワンゴを名指しで批判……総務省、偽広告や誹謗中傷に発信・拡散前の対策求める
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR