人類クマムシ化計画──「むきゅーん」な「クマムシさん」に込められた壮大なる思い(1/2 ページ)
「地球最強」と呼ばれるクマムシ。どこにでも生息し、最大でも1ミリあまりという小さな生物だが、超高温、超低温に耐え、放射線にも負けず、宇宙空間に放置されても生存する。そんな不思議なクマムシが最近、ゆるキャラ「クマムシさん」となって、TwitterやFacebookでじわりと人気を高めている。生みの親は、パリ第五大学に在籍する若きクマムシ博士、堀川大樹さん。「すべての人々の心にクマムシを──」。堀川さんが仕掛ける壮大な「人類クマムシ化計画」の狙いとは?
むきゅーん
「むきゅーん」「しゅぷるしゅぷる」。Twitterで、かわいらしくつぶやいているのは、「クマムシさん」だ。丸い体に丸い目、短い8本の足。クマのぬいぐるみを思わせる愛くるしさだが、よくいる「ゆるキャラ」と侮ってはならない。彼女(プロフィール欄には♀と明記してある)は、北海道で採取され、現在は日本とフランスの研究室で飼育されている著名な「ヨコヅナクマムシ」なのだ。
「クマムシさんって塩素耐性もあったりする?」とユーザーから質問されれば、「えんそはためされたことがないのでわからないけど、きたいのえんそガスならたえられるとおもうよ」ときちんと専門的に答える。またある時は、「ねっちゅうするのはいいけれど、ねっちゅうしょうになっちゃだめだよ。こころはあつく、あたまは、くーる」と哲学的な言葉もつぶやく。
今年1月に登場以来、かわいいだけではなく、知的で謎めいたクマムシさんの知名度は上がり、現在のフォロワー数は9000人近くとなっている。Facebookでもクマムシさんのファンページは、日本語版で1300人、英語版で5300人と海外を中心に人気が高い。
「10代から30代の女性ファンが多いのですが、特に25歳から35歳くらいのアラサーの方に人気です。Twitterでクマムシさんに悩みを相談されますね。疲れているせいか、みなさん、『癒される』とおっしゃいます」と笑うのは、クマムシ研究一筋12年という堀川大樹さん。クマムシさんの生みの親だ。現在、パリ第五大学に在籍。それまで、困難といわれてきたクマムシの飼育システムを、自ら発見した「ヨコヅナクマムシ」で構築、世界のクマムシ研究発展に寄与した。2008年から2年間、米航空宇宙局(NASA)に招聘されて宇宙生物学の研究にも携わったという、輝かしい来歴の“クマムシ博士”である。
科学への橋渡し役に
そんなクマムシ博士が、なぜゆるキャラを?
「僕が研究を最初に始めたころに比べると、最近はテレビ番組やネットで取り上げられてクマムシの認知度が高くなってきました。Twitterでも、クマムシについてしゃべっている人が多くなってきて、しかも、女性に『かわいいかわいい』といわれている。もしかして、クマムシのキャラクターを作ったら面白いかもと思いました」
クマムシ博士の模索が始まった。「それこそ、リラックマを作った方にデザインをお願いしたいなと思ったのですが(笑)、コストはかけられなかったので、2日間ぐらいで、自分で描きました」。こうして昨年2月に完成したクマムシさん。「さっそく商標登録や意匠登録を申請して、昨年末ぐらいに取れました。じゃあ、デビューさせようと思って、今年1月末にアカウントを作って、TwitterやFacebookを始めました」。今年7月にはブログも開設。試作したクマムシさんのぬいぐるみが、カフェや街角でのんびりしている姿の写真が日々更新され、アラサー女子たちを萌えさせている。
堀川さんの狙いは、ただゆるキャラを作ることではない。遠大な目標がそこにはあった。「こういうものを作って普及させることで、生物や科学を知らない人にも、『かわいい』から入ってきて、『クマムシって、こんなにすごい生き物がいるんだ』と知ってもらいたい。科学への橋渡し役ですね。科学関係者のコミュニティでは、サイエンスコミュニケーションで科学をわかりやすく伝えると言われていますが、内輪だけでやっていて、十分に発信できていない印象です。例えば東日本大震災が発生したとき、動いたサイエンスコミュニケーターはごく一部でした」
福島第一原子力発電所の事故が発生、多くの人が放射能に関する専門的な知識を求めていた中、Twitterで東京大学大学院の早野龍五教授ら科学者自身が発信を続けたことを堀川さんは指摘する。「信頼できる科学者を見つけてほしいと思います。そして、科学の世界をのぞいてほしい。クマムシさんを作った一番の理由です」
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